第14話 水晶加工物

 腹を満たしたヴァヴァとガー坊は、地下室に下りていった。


「魔法陣部屋に入らないほど、水晶を採掘してたのか。持ち上がるかな?」


 ヴァヴァは、水晶の塊を運ぼうとしたが、やはり高齢過ぎる肉体は力仕事に向かない。ガー坊は、水晶のひんやりと冷えた温度にぺしぺしと表面を叩く始末。


「お待たせしました。オレたちが運びますよ」

「食器洗い、ご苦労さん。今から、魔法陣布を広げるから、その中心に置いておくれ。んぁ~、魔法効果倍増の魔法陣はどこだったかねぇ」


 ヴァヴァは、魔法効果の高まる魔法陣を描いた布を広げ、ドリィとイスイが中心に円が描いてある部分に水晶の塊を置いていく。


「一旦、軽く積み上がった程度にしておくれ。それ以上積むと、破片が飛び散ってしまうかもしれぬ」

「了解しましたぁ」


 ヴァヴァは、肩幅より少し広く足を広げ踏ん張り、両手を大きく広げ、パンッ!と音を立て手の平を合わせると魔法陣中央にある水晶をググッと視線を送り集中した。


「・・・加圧」


 ヴァヴァが、小さな声を発した後、水晶の塊は瞬時に砂粒ほどの大きさに粉砕した。思ったより、破片が飛び散らずキラキラと光を反射する砂山の状態となった。

 それを確認したヴァヴァは、魔法陣布の端にガラス瓶を運ぶ際に使われた木箱を置いた。そして、壁際に置いてある水晶を見て、高純度と思われる部分に局所的圧縮魔法をかけ、パキッと折る。その破片を持ち、ガー坊に触らせた。


「いいかい、ガー坊。この水晶の破片は、キラキラ光ってるじゃろ?魔法陣の中央にある砕かれた水晶の中からキラキラとした水晶の粒を探し出し、魔法陣布の端っこの木箱に集めてみようか。宝探しのお遊びだぞ?」

「んふ~」


 どの程度意味が伝わったか分からないが、ガー坊は鼻息荒くやる気を見せ、魔法陣布ギリギリに立った。ガー坊は、両腕を肩より高く持ち上げ、指先を小刻みに動かし、膝をカクカク震わせた。その姿を見てドリィとイスイは、必死に笑いを堪えている。


「そ~ん、ってって、どぉ」


 よく分からない声を発し、ガー坊は手を結んで開いた。細かな粒だから気付かなかったが、キラキラと光る帯が木箱の中に入っていく。その流れは、朝靄あさもやのようだった。奇妙な動きを終えるとガー坊は、その場にひっくり返った。その顔は満足した表情。

 ヴァヴァが確認に入る。魔法陣の水晶粒は減ったようには見えないが、木箱の中を見ると、とても眩しい。ヴァヴァのくるぶしくらいの高さまで水晶が集まっていた。


「ガー坊!お前さんやりおったな!この調子で、純度の高い水晶を少しずつ集めていこう」


 ガー坊は、満面の笑みでヴァヴァに返事した。


「さて、この作業工程を繰り返すんじゃが、この一般的な水晶たちをどうするかな?別の箱に入れるか」

「ヴァヴァさん、それ結構手間ですよ。粒状だと拾い集めるのって気が遠くなる」

「そういうなら、ドリィ、その足元にある四角の盆があるじゃろ。それを魔法陣布に置いておくれ」


 ドリィは、何枚かある薬品を運ぶために使うお盆をヴァヴァの指示通りに持ってきた。


「この水晶粒を盆に移し入れ、平らにしておくれ」

「何にするんです?」

「とりあえず圧縮して板状で保管じゃ」

「あ~、運びやすいし、積み重ねできますもんね」


 ヴァヴァは、それから水晶粒を圧縮し、同じ大きさの水晶板を作り出した。その後、水晶塊を砕いて処理する工程を採掘した水晶塊が尽きるまで繰り返した。


「ふ~、ちょっと休憩じゃ」


 ヴァヴァが声をかけ、それぞれお茶を飲んだり、トイレに行くなど休憩をとった。ヴァヴァは、1階の作業道具棚から小さな箱を取り出し、地下室に下りていく。


「なんです、それ?」

「イスイ、アタシがコツコツと彫る作業をしていたのを見ておらんかったか?」

「何かされてるのは知ってますけど、内容までは・・・」

「これはな、培養体に埋め込む水晶の型じゃ。ガー坊には結晶の形で埋め込まれてるようじゃが、体組織にしっかり食い込み挿さるよう形状を変えたんだよ。ほれ、鉤爪があるじゃろ」

「うわっ、すごい繊細」

「ちょっとの工夫じゃよ。さて、早速始めようか」


 ヴァヴァは、イスイに純度の高い水晶粒が入った木箱を魔法陣布から少し離れた場所に置いてもらい、その木箱の中で培養体に装着する型枠に水晶粒をギュッギュッと押し込む。この型枠を3つ準備して、魔法陣の中心に置いた。


「この型枠が圧縮に耐えてくれるかな?ま、何事も試してみないと分からないねぇ。そぉれ、圧縮結合じゃ」


 ヴァヴァが声を出すと、部屋の空気が軽く渦巻き、中央に引き寄せられた。ヴァヴァ以外の人は、ほんの数秒、体が吸い寄せられた。その後、パキーンと甲高い音が鳴り、空気の渦が収まる。


「どれどれ、圧縮で固まってくれたかな・・・1つ失敗か。ほぉ~、若干厚さに違いがある。均等にせねばな」


 ヴァヴァは、ブツブツ言って、失敗した水晶加工物を加圧魔法をかけ、粉々に砕いた。


「ヴァヴァさん、当たり前のように水晶砕いて、なんかすげぇ」

「なんじゃ、ドリィ。アタシがどれだけ長いこと魔道具作ってきてると思ってんだい?それに、今回はエルドラド大佐に命奪われる可能性が高いんでな、手際よくやっていかないとな」


 ドリィは、どのように言葉を返して良いものか分からず、無言だった。ヴァヴァは、気にせず、次々に水晶加工物を作っていった。合計で40個以上はある。


「あっという間に作ったけど、ヴァヴァさん、作りすぎじゃね?」

「予備は大事だし、材料も余ってたしな。ま、良かろ。さて、培養体の様子を見ようか。しばらく放置してたからな」


 隣の実験室に一同は移動し、覆い隠してあった布を取り去った。すぐにドリィとイスイは声を上げて驚いた。


「すんげぇ成長してて、でかい!しかも、女!いろいろデカい・・・」

「へぇ~、髪の毛も長いんですね~、結構美形な顔立ち」

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