第15話 培養体強化

 成長した培養体の姿を見た後、ドリィとイスイは、ヴァヴァの方を見る。


 イスイが聞いてみた。


「この女性型培養体って、エルドラド大佐とヴァヴァさんの体組織をくっつけたやつですよね?」

「そうじゃが?」

「では、お二人の子供ってことですよね。このガラス筒が子宮で成長したという・・・」

「そうも言えるが、そこに"愛"というものはないぞ。合成物でしかない」

「ずばり伺います。ヴァヴァさんが若い頃って、このような外見でした?」

「似てなくもない。身長は大佐の影響かもな。・・・なんじゃ、イスイ惚れたのか?」

「んなっ!でも、すごく美形です」


「え~、この体型はヴァヴァゆずりぃ!彫刻で見たことある曲線で、んふ~」

「ドリィは、興奮するな。アタシの伸びた乳でも見せてやろうか?」

「いえ、結構です」


「ドリィ、ヘタに培養体を触るなよ。この成長過程は、脱皮中の甲殻類のように、ぶにょっと柔らかい。簡単に崩れてしまう。だからこそ、今、機能増幅効果のある水晶加工物を装着させることができる」

「ど、どういうこと?」

「皮膚や骨が柔らかいうちに、ササッと切り込みを入れ、この小さい板状の水晶加工物を装着し、皮膚を縫い合わせる。魂が入っていない分、痛みも感じておらぬだろうし、培養液の濃度も高いなら、傷の回復も早いじゃろうて」


 ヴァヴァは、実験室の道具入れから生物解体用の切れ味の鋭いナイフを取り出した。他に、縫合用の針と糸も準備した。


「いいかい、お前さんたちに水晶加工物を取り付ける手術を手伝ってもらう。やることは、培養体が動かないよう固定する単純な作業だ。さっきも言ったように強く掴んだりすると培養体は崩れる。そっと支える感覚で頼む」

「了解ス」

「分かりました」

「ガー坊は、壁際でよく観察しておいてくれ」

「はぃ~」


 髪の毛が入らないよう頭に布を巻き、袖を捲くって、丁寧に手を洗う。口元は、極力喋らないようにして、培養液を汚さないよう注意する。そもそも、循環式なので衛生面は清潔に保たれるのだが、ヴァヴァが念を入れた模様。


 大きなガラス筒の上部扉を外し、ドリィとイスイが左右に分かれ、ゆっくりと後頭部を支えつつ背中を持ち上げる。その瞬間、ヴァヴァは素早く胸部を切開し、さらにまだ柔らかい胸骨を開いた。


「うぐっ!」

「コラ、ドリィ!吐くんじゃない、我慢しな!」


 気持ち悪そうにしているドリィにヴァヴァが一喝。それから、ヴァヴァは小さなクッキーほどの水晶加工物を鼓動する心臓に上下左右に4つ載せ、軽く押さえつけた。小さくキィーンと共鳴音がして、鼓動が大きくなる。これを確認してヴァヴァは胸骨を数か所、針と糸で結びつけた。さらに、胸部を閉じ、膜や皮膚を縫合して、ゆっくり培養液に沈めた。

この間、10分かからない作業。イスイは驚きで目を丸くしていた。


「・・・ヴァヴァさん、吐いてきていい?」

「1階で吐いてきな。戻ってくる時に、香炉を持ってきておくれ、ドリィ」


 駆け足で階段を上がっていったドリィ。

 ガラス筒の蓋を閉じて、手を洗いながら、イスイが言う。


「すごく手際が良いんですね。しかし、水晶加工物が相当余ってますよ」

「イスイ、材料は多い方がいいんだ。ガー坊、壁に立て掛けた杖を持ってきておくれ」

「どうぞぉ」


 ヴァヴァに杖を渡すガー坊。それから、ドリィが下りてくるのを一同は待った。


「・・・香炉を持ってきた。あ~、衝撃的なものみたよ、もぉ~」

「ドリィは、戦闘をしたことないのか?エルドラド大佐は、なかなか残虐と聞いておるが?」

「オレたちは、支援や補給側なので、血溜まりや返り血程度しか見てないんです」

「あら、そうかい。でも培養体の血液は、透明だ。内蔵は同じじゃがな。ま、気分を変えるために、香を焚いてみようかね」


 ヴァヴァは、実験室で香に魔法で小さな火をつけた。以前も嗅いだことのある甘い香りに包まれる。やがて、3人が瞼が重そうにし始めた。


「以前の効果が活きてるようだね。では、3人には協力を続けてもらおうかね」


 ヴァヴァは、催眠のまじないを独特の発声でかけながら、命令をした。


「ドリィとイスイ、お前さんたちは培養体へ水晶取り付けを手伝いなさい。ガー坊は、そのまま待っていなさい」


 ゆらゆらと体を揺らしながら、ドリィとイスイは別のガラス筒に近づき、同じ作業に入る。女性型培養体に比べれば、残り2体の成長は子供の大きさ。培養液濃度等、条件が違うので成長速度に差が出ている。

 まず、催眠状態のドリィとイスイに培養体を支えさせ、心臓に水晶加工物を取り付け、縫合を行なう。次にヴァヴァが行なったのは、頭部にぐるりと一周切込みを入れ、頭蓋骨ごと取り外した。それから、水晶加工物を頭蓋骨内側に食い込ませつつ、前後側面に10個、上部に4個、水晶加工物を取り付け、頭蓋骨を慎重に戻した。骨が柔らかい分、ちょっと指で広げながらはめ込み、目立たぬよう縫合し、頭から顎まで長い布で何周か巻いて固定した。体を支えている2人に指示を出し、ゆっくりと培養液に戻す。

 もう1体の培養体も、手際よく進めた。


「さすがに集中しすぎて、疲れたな。でも、この勢いでやらねばならんことがある。ドリィとイスイ、手を洗いなさい。ガー坊、実験室の出入り口まで来なさい」


 ぽてぽてと、歩いてくるガー坊。


「いいかい、ガー坊。お前さんにしか出来ないことをこれからやってもらう。今、壁になっている所を地形操作で道を作りたいんじゃ。アタシが言う大きさで一緒に作るよ」

「ぬぃぃ」


 妙な返事をしたガー坊。


「まず、実験室を出て、通路の突き当りを触りなさい。そこから、ガー坊の歩幅10歩分、通路を押し広げて。横幅はガー坊が2人並んでも通れるように」

「うぃ」


「今度は、左を向いて、ガー坊の歩幅80歩分、通路を押し広げて。横幅はガー坊が2人並んでも通れるように」

「うぃぃ」


「さぁ、部屋を作ろう。実験室の半分くらい大きさを押し広げて固めてちょうだいな」

「うんうん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る