第16話 残り一週間

 ガー坊は、催眠状態だと余計なことを考えず、且つ迷わないので、ヴァヴァの指示に従い、崩れにくい安全な通路を作り、空間も余計な振動を起こさず、安定して地形操作能力を発揮した。


「一気に作業を進めたいが、用心した方がいいね。こういう時こそ、監視が入るもんだよ。ガー坊、入り口まで戻ろうか」


 ヴァヴァは、地下通路とつながる所まで戻ると、またガー坊に指示を出す。


「この通路の境目に、周囲と同じ壁を作っておくれ」

「はーぅ」


 ガー坊は、手を上下に動かすと、床がせり上がり壁が出来た。奥に通路があるとは思えない見事な仕上がり。

 実験室に戻ると、ドリィとイスイは、まだ手を洗っていた。ヴァヴァは杖で床をドンッと突くと、3人は催眠から覚めた。


「あれ、何してんだ?」

「ん?・・・・・・手を洗ってんだろ。培養液のぬめり取り」

「二人共、疲れが溜まってんだな。他の培養体に水晶埋め込んだのも覚えてないのかい?」

「いや、まだのはず」

「ドリィは目を瞑って耐えてたからな。生々しいものは思い出したくなかろう」

「・・・そうなのかな?そうなんだろうな」

「今日は、作業おしまい。ずいぶん時間かかったから、ゆっくりしよう」


 腑に落ちない表情をするドリィだが、ガラス筒内を見ると縫合跡があり、自分の両腕が上げにくさとだるさがあるので作業を手伝ったんだなと理解した。


 その後、夕食を取り、4人はそれぞれのやり方で休息を取った。



 ドン!ドン!


 早朝から激しくドアを叩く音が響く。


「ん、なんだ?」


 ドリィがドアを開けると、エルドラド大佐が立っていた。


「おはようございますっ!」


 ドリィとイスイが、見事な直立姿勢で敬礼をした。


「あ~、朝早くだけど、状況を見に来た。おーい、ヴァーさん生きてるか~?」

「・・・うるさいねぇ、朝早くに迷惑なんだよ、その音は」

「朝しか動けねぇんだよ、ちょっとガラス容器の状態見せてくれよ。ん、ガラクタは、またビビってんのか、壁際で体小さくして」

「大佐が首締めたからだろ。ドリィ、ガー坊のそばにいてやってくれ。イスイ、地下室に付いてきてちょうだいな」


 イスイが先導して、エルドラド大佐とヴァヴァは地下の実験室に向かう。


「えぇ!女かよ!髪長ぇな」

「大佐、この培養体は、すごく美形です」

「・・・惚れるなよ。ヒポ様の転移先になる培養体なんだから」


「何言ってんだい、あんたらは。培養体はどうにか育っている。培養液の濃度を上げているから、成長は早い。ただ、その成長を早めた結果どうなるかは、これまた分からない」

「仮に、急いで転移させると言ったらどうする?」

「そりゃ、ガー坊を見たら分かるだろさ、ちゃんと生きてる。ヒポの寿命が近いのかい?」

「寿命というか、腐敗がひどい。先日も隊員が胴体をかじられた。医者に見せる前に体が緑色になってしまい、手遅れだった」


「それなら、いつやるんだい?」

「来週には転移を頼むかもしれない。湖のほとりで出来るよう、魔法陣布を準備しといてくれ」

「あのさ、培養体は女性の体してるんだ。大きさの合う着る物を用意してやんな」

「あぁ、そうだな。他の培養体はどうなんだ?」

「布で覆われている隣のガラス筒にいる。培養液濃度が違うので、成長は遅い。ガー坊より体長はありそうだが、どうなるかね。状態は良くないよ」

「確実な1体が、今は大事だ。イスイ、先日の荷車で出動命令が出てもすぐに培養体を運べるよう準備するように」


「了解しました」


 エルドラド大佐は、反王国の本部に戻っていった。


「ヴァヴァさん、朝食の準備をしますね」

「ありがとさん。あ、イスイよ」

「何です?」

「荷車の準備は時間かかるのかい?」

「どういう形で運ばれるのか、で変わるかなと。培養液に浸した状態で運ぶのが良いですか?」

「外気に触れさせた方が、皮膚が乾燥して人と変わらなくなるだろう。そうなれば、組織が崩れにくいな」


「では、本部事務所に行って、エルドラド大佐の服をもらってきます。培養体のみなら、余っている毛布を緩衝材にします。そうなると、10分もかからないで荷車準備できますよ」

「分かったよ。イスイとドリィに、また頼みたい作業があるからね。残り1週間もないだろうから、正念場だよ」

「正念場?あ~、培養体に命を宿すわけですから、最終段階ってことですね。では、オレは本部事務所に行ってきます!」


 イスイは、地下階段を駆け上がり、道向かいの反王国本部事務所へ行った。


「分かってないねぇ。正念場って、アタシとガー坊の命が取られるかもしれないってことだよ。ひひっ、悪あがきしないとね。しっかり、命は燃やさないと、ただ待ってるだけじゃ長生きしてきた意味がない」


 ヴァヴァが1階に戻ると、朝食の準備が整っていた。


「これは、誰がやったんだい?」

「オレがやっておきました、イスイから言われる前に。ガー坊が緊張取れたら、腹すかしたみたいで催促するんですよ」

「ヴァ~ヴァ~、食べるよ~」

「なんだいガー坊、待ってたのかい。さて、今日も忙しくなるから、しっかり食べようかね」


 朝食を済ませ、さっそくヴァヴァは1階にある棚の引き出しを開け、探し物を始めた。


「ヴァ~ヴァ~、何するの~?」

「ガー坊にお守りを作ろうかと思ってね」

「え、オレにはないんすか?」

「ドリィにはヒポの付与が付いてんじゃろ?それ以上、何を守って欲しい?」

「ま、そうっすね」


 ドリィは、ノリで言ってしまい気まずそうに食器洗いを始めた。


「さて、指輪や腕輪だと変に目立つか。首から下げていた方が無くさないじゃろな。紐で巻き付け固定するとしてん~、宝石の類は大佐に頼んでも届くまで待てないから、また水晶で代用するか」


 ガー坊は、何が作られるのか分からないので、左右に大きく首をかしげた。


「いいかい、ガー坊。この数日が勝負だ。生き残るために、作業やっていこう」

「ぉ~」

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