第12話 ガー坊の採掘

 ガー坊が地形操作により見つけ出した大きな球形の岩。この球形の岩をガー坊が割るようヴァヴァに頼んだ。


「ドリィとイスイ、何分割にしたら、荷車に載せやすいかい?」

「え、あぁ、なるべく小さい方がいいっす」

「そうかい、ドリィ。ガー坊は、この岩の中に狙ったものがあると踏んでいる。ま、試しに4分割か・・・」


「ヴァヴァさん、我々は離れていた方がいいですよね?」

「イスイ、構わんよ。近くで見てなさいな。広範囲の重力魔法だと、この廃坑自体が揺れる。極めて狭く限られた範囲に重さを伝える、アタシぐらいになると、こうだ」


 ヴァヴァは、球形の岩をペシッと叩いた。少し、後ずさりしてヴァヴァは眺めている。


「えぇ~、ハッタリじゃないっすかー!何も変化しないし~」

「ドリィ!近づくな、下敷きになるぞ!」


 ヴァヴァがドリィを一喝すると、球形の岩はゴギョッと鈍い音を立てて、少々歪な形で4つに割れた。一番大きな塊が転がった先で、ドリィは尻もちをついて息を飲んだ。


「ぁはははは、岩に触ってたら、オレの右足は潰れてたなぁ~。・・・すんません」


 ガー坊は、割れた岩の中身を見て、小躍りしている。ヴァヴァとイスイは、近づいて確認した。


「ずいぶん透き通った水晶が多いな。ガー坊、よくやった」

「・・・ヴァヴァさん、この煌めく水晶たちを見たのは初めてですよ。以前、採掘に加わってましたが、純度が違うというか」

「落盤や崩落が多かったと聞く。しっかりと補強しながらの採掘は限界があるじゃろう。もう少し砕いてみるから、どんどん荷車に載せていってくれ。ほれ、ドリィも運べ。いつまで肝を冷やしておる」


 ヴァヴァは、煌めく水晶たちをなるべく砕かないよう岩を割り、ドリィとイスイは次々に荷車に水晶の塊を運んだ。

 ガー坊は、満足するまで小躍りを続けた後、急に通路から飛び出し、広い空間に戻った。そして、地面に両手を置いている。


「ヴァヴァさん、あれ大丈夫ですかね?」

「んん?あ、なるほど。アタシが調べさせたのは壁ばかりだからね、横じゃなくて下が気になるんじゃろ。イスイ、近寄るなよ。ドリィみたいに事故未遂じゃ済まないぞ」

「えぇ、了解です」


 ガー坊が視線を送る地面を中心に、円錐状に回転しながら地面がサラサラとすり減っていく。アリジゴクの巣が作られる工程のようだ。十分地面が削られたところで中心より少し右に白い塊が見え始めた。


「ほぅ、大物だな」


 ヴァヴァが、思わず声が出ていた。ガー坊が地面を削り進めると、水晶の大きな集合した塊が露わになり、松明の灯りを反射し、キラキラと輝いていた。


 ドリィが言う。


「さっきの岩を割るものとは違うわけっすか?」

「ガー坊なりの工夫じゃろ。感覚的に大きい水晶があると分かったから、水晶以外を砕きながら土を削ってみた」

「ガー坊、怖ぇな。しかし、あの塊を持ち上げるのは、さすがに無理ですよ」

「そりゃ、人の手じゃ無理だわなぁ。今回は観賞用の売り物なわけじゃないし、再結晶させるから、この場でまた砕くぞ」

「了解す」


「おーぃ、ガー坊、水晶の周辺をなだらかに下りられるように、形を変えて、しっかり固めてくれるかい?」

「あ~ぃ、分かたょ~」


 ガー坊は、ヴァヴァの指示通り、水晶右側周辺の地面を大きく削り、ググッと圧縮させ強固にした。また、円錐状に削られた部分を水晶が飛び散らないよう壁にするため、地面を盛り上げ、しっかりと固めた。


「何が、ガラクタだよ、すごく器用な子じゃないか。適材適所であり、学習能力がある」


 ヴァヴァは、ガー坊の働きを見て呟いた。そして、考える。培養体の心臓が未成熟なところがあるから水晶の一定振幅を利用し、補助として扱った。その結果、ガー坊は当たり前のように動ける。息切れしてないから、肺は問題ない。気になるのは、脳の理解が鈍足。そりゃ無理もない、6人分の思考が混ざっている。平面に6人隊列を組んでおらず、1人分の立ち位置面積に6人が立たせられている。脳も各部位で役割が違うと聞く。薄く加工した水晶を脳に忍ばせれば、平面ではなく立体的に広く思考が使えるのではなかろうか?


 ヴァヴァが、ブツブツ言いながら考えていると、ガー坊が近付いてきた。


「ヴァヴァ、準備でけたよ」

「あら、そうかい?ちゃちゃっと、運びやすく砕いていこうかね」


 ヴァヴァは、輝く水晶塊の近くに行き、今度は杖でコンッと軽く叩いた。バギバギッと亀裂が入り、飛び散る範囲が狭い状態で割れていった。


「おーぃ、お二人さんよ!荷車に積んでくれるかい?」

「了解でーす」


 ドリィとイスイが輝く水晶を運ぶ間、ヴァヴァはガー坊に尋ねた。


「ガー坊よ、壁の方で地下水が少し噴き出す場所ってありそうかい?」


 ガー坊は、首をかしげ、そのまま壁を見る。少し進んだ場所を指差し、言った。


「・・・あそこから、水出る。量は少ないよ」

「少なくて構わんよ。顔や手を洗いたいだけだからね」


 ガー坊は、てくてく歩いて、両手を開いて、親指と人差し指の頂点を合わせ三角形を作り、壁に手を付いた。その三角形の形で壁に穴が掘られつつ、崩れないようがっちり穴が固められていく。やがて、穴の奥からちょろちょろと濁った水が出始め、次第に透明に変わっていった。ヴァヴァは、その辺に転がっていた平たい岩を穴に押し込み、壁伝いに流れていた水を平たい岩を伝うように水流を変え、そして手を洗った。


「ガー坊、お前さんも手を洗いなさい」

「はぁーぃ」


 ガー坊も手を洗った。そして、ヴァヴァは、少し離れたドリィとイスイにも声をかけた。


「あんたたちも手を洗わんかね~?食事にしよ~」

「分かりました~」


 皆が手を洗い、汚れを落として、荷車にある食料を食べることにした。水、パン、果物、大した物ではないが十分体を動かし、また帰ることを考えると、大事な食事であるし、休息でもある。

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