第11話 廃坑潜入

 それから数日経ち、天気が回復し、水たまりも消え、ようやく廃坑へ水晶採掘に向かうことが出来た。


「おーい、イスイ、食料ってどこに置いた?」

「ん?ドリィの近くに・・・コラ、ガー坊!食料の入った箱に座っちゃダメだろ」

「ぬぅ~」


 ゆっくりと立ち上がるガー坊。


「ヴァヴァさん、採掘道具と水は既に載せてましたので、この食料箱を積んだら出発できます」

「あぁ、そうかい。お前さんたちの体力もすごいねぇ。帰りに鉱石とアタシらを運べるのかい?」

「オレとイスイで、荷車から溢れるくらいの鉱石を何度も運んでるんで大丈夫っすよ」

「頼もしいねぇ」


 魔道具工房の前にある荷車にヴァヴァとガー坊が乗り込み、ドリィとイスイが荷車を引っ張り、鉱山へ出発。天気が良く、少しひんやりとした高地の風が吹く。時より、ガー坊がくしゃみをして鼻を垂らす。その姿を見て、ドリィが笑った。

 比較的整備された道を進むと、右側にヒッポリー湖が大きな岩陰の間から見える。きらめく湖面がとても美しく4人は、見惚れていた。


「いつ振りかねぇ、ヒッポリー湖を眺めるのは」

「そんなに見てないんすか?」

「そりゃ~ドリィ、分かるだろ。アタシは片足食われて、幽閉されてるんだからねぇ。それに広い場所でヘタに魔法唱えられて危害加えるかもって思われてんだよ」

「ヴァヴァさん、実際に魔法で逃げ出したことないんですか?」

「随分なことをイスイは聞くんだねぇ。その昔、エルドラド大佐の魔力が大幅に増大した時があった。瞳が真っ黒になって変な息を吐いていた。すぐに分かったよ。『ヒポの力を得たな』って。王国のヒポ討伐隊として戦った時は20人以上いたが太刀打ち出来ず、アタシともう一人は、ヒポに体を食いちぎられた。その力を大佐は分け与えられた。無謀な戦いはしないよ」


 ヴァヴァの昔話を聞きながら、2時間ほどで鉱山入り口に辿り着いた。


 イスイが言った。


「では、今から鉱山内に入ります。既に廃坑となっていて、立入禁止なので、誰かに出くわすことはないはずです。事前打ち合わせした通り、昇降機を使って一気に3層に降り、左側通路を進みます」

「イスイよ、荷車ごと昇降機に乗れるのかい?」

「そうですよ。鉱石を積載したまま荷車で昇降可能な性能です」

「あれまぁ、それじゃ、楽させてもらうよ」


 鉱山出入り口のすぐ近くに昇降機がある。


「イスイ、これは、どうやって動いているのかい?」

「あ~、これ他国の技術だそうですよ。滑車の組み合わせと動力源に魔道具使ってるらしくて。では、荷車も入っていきますよ」


 昇降機の扉を開け、荷車ごと全員乗り込んで、昇降機内のレバーを操作する。ゆっくりと降りる。


「あぁぁぁワワワのぉぉぉぉぅ」


 初めての昇降機に震えながら声が出るガー坊。ヴァヴァの袖口をしっかり掴んで身を小さくしている。


 5分くらいかかって、最深部の3層目に到着した。また、同様にし扉を開け、荷車で昇降機から出た。そして、左側通路を進み、通路の途中にある照明用壁掛け松明置き場に、ドリィとイスイは少し進んでは松明を置き、明るくしながら通路を進む。

 ぼんやりと明るくなる廃坑最深部は、ジメジメしており、少しカビ臭い。通路は、荷車がどうにか通れる狭い部分と急に開けた広い空間があった。進むと、さらに広く大きな空間があって行き止まりになった。


 ドリィとイスイは、壁際に松明を立て掛け、ぼんやりと明るくなった。それを見てヴァヴァは、荷車から降りた。


「どれ、ちと歩いてみるかの。ガー坊、一緒に来なさい」

「はぁい」


 二人で入ってきた通路まで歩く。


「いいかい、ガー坊。今から壁伝いに沿って歩いてみる。実験室でいろんな鉱石触ったのを覚えているかい?あの触れた感触に似た物が壁から感じ取れたら教えなさい、いいね」

「うん?」


 壁を触りながらガー坊は歩き出し、その後を三人が付いていく。


「何やってんだよ、あれは」

「ドリィ忘れたのか?裏口でガー坊は水晶掘り出してんだぞ。あれを再現するつもりなんだよ」

「静かにしな、二人共」


 ガー坊は、手のひらを擦りつけながら、ぽてぽて歩いていく。時折、両手を当ててみるが、それ以上何もせず

また歩き出す。ぐるりと一周歩いてしまいそうな頃、また両手を壁に当てた。目を閉じ、少し腰を落としたガー坊は

壁を押しているように見えた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 ガー坊の手の高さにある壁が次第に凹みだし、押しのけられた土が圧縮されながら空間が広がっていく。


「ほ~、削ると崩れるから、押し固めながら通路を作っているようじゃな」


 そういうヴァヴァに対し、ドリィとイスイは、大きく口を開けて驚いている。


「いやいやいやいや、そんなことあっていいの~?」

「何これ?ま、魔力ぅ?」


「そうじゃよ、呪文唱えるだけじゃない。ガー坊は、やはり地形操作が出来るわけだわなぁ」


 それから、どんどん空間が広がり、頑丈な壁が出来、荷車が通る幅の通路となった。どんどん突き進むガー坊は10mほど進んでいる。あとを付いていくヴァヴァたちは、また驚くことがあった。天井部分から地下水が滲み出し、あっという間に滝となって吹き出した。ガー坊は、進んだ道を戻り、両手を掲げ、交差したり、手のひらを握って開く動きをした。すると、両壁が天井に向かって動き出し、どんどん再圧縮を重ね、水漏れを塞ぎ潰した。普段とは違いすぎるガー坊の動きと冷静さにドリィは自身の両腕を掴み、少し震え、ガー坊が怖い存在に思えた。


 さらに突き進むガー坊は、ようやく歩みを止めた。大きく両手をパンッと叩き、壁に両手を当てると、土がもこもこと動き出し、大きな球形の岩がゴロンと産まれた。壁が崩れないようガー坊は再圧縮して強固な壁を作っている。


「ヴァ~ヴァ~、コレ割ってェ」


 ガー坊が、ヴァヴァに壁から産まれた岩を割るように言う。


「そうかい。ヴァヴァの重力魔法を見せてあげようかねぇ」

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