第46話 もう少し

 集会所での夕食後、民家地下室で作業に入り、パンナは、実験室から持ってきた薬品数種と庶民街の魔法薬品店にあった薬品や道具類を並べて、どう組み合わせたものかと考える。


「パンナ様、地下室の崩落は避けたいので、大岩隆起で支えつつ、地下の三部屋を壊したいと思います」

「そうか~、そうなると爆発系ではなく、ねっとりと燃え続ける状態が理想じゃな。姫さまの体にも塗っておけば良いか」


 モヒートの意見を踏まえ、パンナは蜂蜜のようなとろりとして粘りのある燃焼化合物を目指し、薬品の合成手順やその分量をカバンから取り出した手帳に書き始めた。途中、参考になればと実験室にあった紫色の本を眺めたりもしたが、今回の目的とは

異なる内容だったため、パンナ自身の記憶を辿り、思い出したことを箇条書きして、そこから、また組成式や計算を書き出し完成予想工程を導き出した。


「モヒートよ、すまんが、1階でお湯を多めに沸かしておくれ。薬品の反応を高めるために、この地下温度は低い。湯煎のような事をして状態をみたい」

「分かりました。他に、実験器具は足りますか?」

「ん、そうじゃな、それなりの広さを燃やすためには量がいる。往復するにしても、ガラス瓶を何十本も使うのは骨が折れる話じゃ」

「そうですよね、大量に要りますね。培養装置のガラス筒くらいの大きさがいるんでしょう」


「はっ!その手があるじゃないか!モヒート、いい事言うじゃないか!培養装置を実験室に運び入れ、下準備した化合物をガラス筒内で混ぜ合わせる。大岩隆起で培養装置ごと破壊し、燃焼開始。流れ出た燃焼化合物は広がりながら燃え続ける」

「え~っと、どういう物が出来上がるんですか?」

「はっはっはっ、明日のお楽しみじゃ」

「では、お湯を沸かしてきます」

「頼んだぞ。あ、そうじゃ、下りてくる時に小鍋を台所にある全てを持ってきておくれ」


 詳しくは分からないモヒートは、パンナの指示通りに動き、その後も燃焼化合物の下準備作業を深夜まで手伝った。途中、薬品の合成過程で発生する吸ってはいけない気体があるため、急遽、地形操作で密閉できる実験作業小部屋と煙突を作り、対応した。


「よし、この2種類を小鍋に入れる。ゆっくり混ぜ合わせると、次第に固まり始める。今日の作業は、ここまでにしよう」


 この民家には、小鍋が5つあったので、それぞれに入れ、固まるまで実験作業小部屋で放置し、パンナとモヒートは、短い睡眠を取った。


 ゴン!ガラッドン!ベン!


「ふあぁっ!」

「ぉぁょぅ・・・ございます」

「・・・なんじゃ」

「日が昇ると地形が反応してバケツが落ちる目覚ましですよ。最近は、バケツ落ちる前に起きてましたからね」

「あぁ、そうじゃったな。は~、眠いが姫さまのため起きねば」


 ろくに寝ていない状態だが、二人は顔を洗い身支度をして、集会所へ顔を出した。いつものように適当な会話をしてパンを食べ、民家に戻る。


「小鍋の確認をしようか」

「はい、お待ち下さい」


 急遽作った密閉できる小部屋をモヒートが地形操作で開けると、小鍋の中身がカチカチに固まっていた。


「ん、上出来じゃな」

「・・・あ、分かりました!この固まった物を培養液で溶かしてしまうんですね」

「お前さん、本当に頭の回転速いな。この固形物を液体に溶かすと、粘り気のある状態になる。燃えている状態に水をかけると粘り気が薄まるが、燃える液体として広がる。ただ、固形物のままじゃと、振動や衝撃では、そう簡単に燃えはしない」

「すごいですね。布で包んだ方がいいですか?」

「いや、箱机の連結を作ってみなさい。アタシらが先頭にいて、後ろの小鍋が乗った箱机が5つ連なる」

「はい、了解です」


 準備を整えたモヒートは、地形操作でまず二人乗り箱机を作り、小さな箱机を5つ作った。それぞれを連結する鎖形状のものでつなぐ。


「そもそも箱机という移動手段、箱に足が生えてるのが奇妙じゃが、連結させると足が沢山。ムカデのようじゃ」

「連結は初めてなので、見た目は考えないでください」

「ふふっ、姫さまの所へ参ろうか」


 城までの地下通路をいつもより低速で移動した。


「パンナ様は、先に行ってください。小鍋を持って地下通路に置いていきます」

「頼んだぞ」


 パンナは、スノゥにまず挨拶をした。それから、培養体の様子を見る。高純度水晶を埋め込んだ傷口が塞がっているか、気になった。成長が早い培養液であっても、傷の回復はどうなるか予想ができなかった。

 培養装置の蓋を開け、培養体を持ち上げ、状態を見る。


「ん~、これは厳しいな」


 小鍋を移動させたモヒートが近寄ってきた。


「どうされました?」

「手術痕が思ったほど、しっかりくっついていない。現時点では、転移の衝撃で開いてしまいそうだ。姫さまの元へ行こう」


 スノゥがいる地下室に二人が入り、説明をした。


「姫さま、手術痕の接合部分が完全ではありません。今、転移を行なうと、頭蓋骨も離れましょう。なので、今日の夜までお待ち下さい。今は、まだ早朝。12時間以上経つというのは、ここの培養装置だと相当な成長を示します。より万全な状態で姫さまには培養体に移って頂きたい」

「分かりました。大した時間ではありません」

「その間、我々は姫さまが転移後に行なう破壊工作の準備を致します。下準備は済んでいるので、仕込みとも言えます」

「・・・久しぶりに聞く物騒な話です。私にとっては、何年振りのことでしょう」

「いよいよ、その時が近いということです。では、準備に入ります」


 パンナとモヒートは、培養室に入る。


「培養液は十分余っているな。モヒートよ、実験室に1台培養装置を移動させておくれ」

「了解しました」


 モヒートは、実験室に近い1台を押し、培養装置を動かした。


「パンナ様、培養装置のガラス筒1つで十分燃える量なんですか?」

「気分的には豪快に燃やしたいが、モヒートの大岩隆起で崩すから、うまいことガラス筒を割り崩して、燃焼化合物が燃え広がりすれば十分なんじゃなかろうかな」

「そうなんですね。では、培養液の充填作業に取り掛かります」


 モヒートが、実験室、培養室の培養装置に培養液を注いでいった。十分注がれた所へ、パンナが小鍋から固まった燃焼化合物を崩し入れ、培養液に馴染ませている。


 作業を終え、またスノゥの元へ。


「姫さま、一旦戻りますが、今日の夜に伺います。いよいよです、培養体転移を行いますゆえ、お待ちください」

「はい、待っております」


 二人は、民家に戻った。

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