第45話 決行前夜
培養装置に入っている培養体が、高純度水晶を埋め込む処置に耐えうる体長になった。パンナとモヒートは、準備に取り掛かる。
実験室から貴重な金属製ナイフ、民家から持ってきた裁縫道具といった道具たちを強いお酒で消毒する。二人も袖を捲くって強いお酒で手を洗う。
「では、始めるとするか。モヒートよ、頭から先に切開する。その前に、この培養体は髪の毛が長いので布で頭頂部で束ね、側頭部を帯状に毛を剃り、それから始めよう。大変じゃが、首と背中を支えて培養液から少し頭部を出すようにしておくれ」
「分かりました。支え用の布を浸すと、培養液が汚れてしまいますか?」
「そうじゃな、この装置のろ過技術がどの程度か分からないから布で支えるのは避けたい」
「それでは、持ち上げます。よしょっしょっ」
モヒートが掛け声を出し、培養体を持ち上げる。パンナはモヒートが地形操作で持ち上げた踏み台に乗り、片手で髪を束ね、培養体の側頭部を剃り上げる。骨や皮膚が、ぶよぶよして非常に柔らかい状態だが手際よく進め、左こめかみ辺りからぐるりと一周ナイフを入れる。この工程を何度か行ない、骨まで切った。それから、後頭部をモヒートに持たせ、束ねた髪の毛で引き上げる。消毒した高純度水晶加工物を迷いなく脳に装着する。その後、膜を仮止めしたり、皮膚を縫合して元の状態に戻す。
次に心臓に高純度水晶を埋め込む。モヒートは、腕を下げ、震わせ、筋肉のこわばりを取り、培養体を浮かんだ状態に持ち上げる。迷いなくナイフを入れるパンナ。時間が短いほど、培養体への負担が減るのは当然で、無駄を減らすよう手際よく作業を行なう。胸骨を開き、心臓に装着後、丁寧に縫い合わせる。
縫合後、培養体は手術前と同様に鼓動し、体の成長を続ける。パンナとモヒートは、培養液で濡れた腕を拭き取り、大仕事を終えたので力が抜け、腰を下ろした。
「はぁ~、緊張しました」
「以前の記憶が残っているのなら、もう少し楽な体勢があっただろうに。ガチガチじゃったな」
「ぼんやりとしていて、覚えてないんです。しかし、培養体って血液が出ないんですね」
「違うぞ、モヒート。培養体は、何も食べていないから、培養液と同じ色の血液。体液も同様じゃ。食事を始めると、血液は人そのものになる。擦り傷といった怪我をした場合、血は赤かったじゃろ?」
「そうですね、草木で腕を切った時に赤い血が出ていました。そういう変化があるんですね」
「短時間とはいえ、疲れたな。回復薬を飲んでおこう」
二人は、混合回復薬を飲み、スノゥの元へ報告に行った。
「姫さま、無事に培養体への水晶埋め込みが終わりました」
「お疲れ様でした。しかし、そのような処置をして、培養体は痛みを感じないのですか?」
「培養体は、精神がない状態で生きているので、自身の体に痛みを伝えても反応する部分がないのです」
「そうなのですね。今後はどうなるのですか」
「明日、可能ならば、姫さまを魔法陣布を使い、培養体に転移させます。ただし、先程切開した部分の接合塩梅で予定が変わります。それでも、2日目以降は痛みを伴っても転移を強行します」
「覚悟が必要なのですね」
パンナとスノゥが話をしている時に、モヒートは床に両手を置き、目を閉じて意識を集中させていた。地形状況の把握をする。
「パンナ様、スノゥ姫を転移させた後は、この地下室はどうされるのですか?元の体をそのままにするわけにもいけないので」
「ん、何か思い付いてそうじゃな」
「はい、地下の廊下側や床下に大岩や岩盤があるようで、それを隆起させ、培養室や実験室に立ち入らせないように出来ます。この地下室脱出時にボクが作った地下通路は全て塞いで元通りにしますが、痕跡調査に時間をかけさせるには、大岩を使って階段と廊下を塞ぎ、培養装置も破壊する、というのはどうでしょう?」
「床が抜けないように支えつつ、破壊するなら、我々の通路もすぐには塞がらないわけか」
「あのぅ、それならお願いがあります」
「姫さま、何でしょう?」
「モヒート、転移した後にこの体を大岩で潰してください。バヴァは、その後にあの人たちが、この体を培養できないよう燃やしてください」
「ん゛んっ!姫さまのお体を傷つけるのですか・・・」
「不老不死の肉体、さまざまな実験に使われてきました。さらに、利用されたくないのです。自らの手で葬ることが出来ないので、お願い出来ませんか?」
「ボクは、スノゥ姫のご意見に従います。培養体転移が成功したならば、本来なら埋葬すべきだと思います。しかし、相手は墓を見つけ出し、掘り起こすでしょう。また、スノゥ姫がこの世にいなくなった証拠を残さないと、怪しまれます」
「モヒート、冷静な怒りを保ったままなんじゃな。姫さま、ご提案受けましょう。実験室の残っている薬品とアタシの魔道具を組み合わせて体組織を採取しても使えないようにします」
「酷な事を頼んで申し訳ない。奴らに一矢報いたいのです」
パンナとモヒートは、実験室に入り、使えそうな薬品がないか探した。また、この実験室と培養室も適度に燃やせないか?ということも確認した。
複数の薬品瓶を持ち、また、スノゥの元へ戻る。
「姫さま、今日は戻ります。明日の準備がありますので。いよいよですね」
「はい、ここ数日、苦労をかけましたね」
「姫さまの長い月日に比べれば、
「また、明日」
「スノゥ姫、失礼致します」
「はい、モヒート、よろしくお願いします」
パンナとモヒートは、民家に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます