第25話 城下町

 王国の領土内には、いくつかの街がある。ヴァヴァは、そんな話をガー坊に聞かせながら山道を歩いていた。時折、道がなくなると、ガー坊が地形操作で岩を転がし、通れる道を作る。


「昔の話だけどな、王国には城があって、城から南に向かって、兵士が住む居住区、お城で働く者が住む居住区さらに南に庶民街があった。城から東南方向には、ヒッポリー湖が見える高台に職人と商人が住む街があった。我々がいた反王国が拠点としている鉱山の町は、城から東に位置している」

「大きな領土なんですね」

「資源は豊富だろう。欲を出さねば、皆が潤っていた。今は、どうじゃろな。・・・また、肝心なことを忘れておった!」

「なんでしょう?」


「王国には、当然反王国の協力者がいるはず。偽名を使って、発見されるのを少しでも遅らせる必要がある」

「発見される?バレないためではないのですか?」

「同じ培養体のエルドラド大佐が生きておる。奴は、ヒポを食って魔人化しておるので、人の能力ではない」

「なるほど。しかし、偽名・・・何か案があるのですか?」


「ガー坊、お前さんには、アタシが魔法を学んだ師匠の名を使うといい。今の姿、輝く緑色の瞳、鶏冠とさかのような髪型、似すぎておる。その名は『モヒート・ムーゲン』そもそも、ガー坊は愛称みたいなものじゃろ。お前さんの中にいる6人の内、誰かの名前は思い出せるか?思い出しているのならば、それを名乗るのもありじゃぞ」

「いえ、記憶は混ざって、名前が浮かぶことすらないです。では、今からモヒート・ムーゲンと名乗ります!」

「ほほう、勇ましいのぉ。さて、アタシは、どうしたもんかな・・・その辺の野草にでもするか・・・ヨモギ?」


「ちょっと待ってください!今のヴァヴァ様の姿で、ぼんやり思い出せたことがあります」

「なんじゃいな」

「ボクの中の誰かが絵本を思い出して、その主人公の女の子が思い浮かびます」

「どんな絵本じゃ?」

「女の子が色んな場所を旅して、目的地に行くお話です」

「・・・なんか、ぼんやりした内容じゃな。まぁ、詳細は思い出せんわけかな?」

「具体的には思い出せないですが、名前はハッキリと。女の子は『パンナ・コッタ』と言います」

「まぁ、悪くはないな。どこかにいそうな名前だし。では、アタシは、パンナ・コッタじゃな」


「質問いいですか?魔法詠唱する時って、ヴァヴァ様どうなるんです?」

「アタシの本来の名前は、バヴァ・ロア。そもそも偽名だったわけじゃ。詠唱が必要な強大な魔法は、正式な名を名乗る。普段は、パンナ・コッタちゃんでいく。この若々しい娘っ子姿には似合ってるかもな」


「では、参りましょうか、パンナ様」

「コレ、ガー坊!"様"って、おかしかろう!」

「パンナ様でもいいでしょう!それに、もうボクはモヒート・ムーゲンを頂いたので、ガー坊は無しの方向で!」

「あれまぁ。では、行こうか、モヒートよ」

「はい、了解です、パンナ様!」

「・・・もう、好きにせい」


 新しい名と仮の名を付けあった二人は、崖に階段を作り、上っていった。


 階段を上がった先には、たくさんの家が見える。古めかしい石造りの家屋。二人は、周囲を見渡すが人の気配がない。子供の遊ぶ声や普段の話し声すら聞こえてこない。遠くにお城が見える、その北方向に少し歩いてみるが、衣類を干してある光景もない。ただ多くの家屋に見られるのが、緑色のシミのような跡。北側に多くあるが、近寄ってみると苔ではない。


「ヴァ、いえ、パンナ様、この辺りって、こんなに人がいないんですか?」

「この辺りは庶民街。どんな国でも一般の民がおらねば、国が発展しない。生産だけしても消費がなければ、釣り合いが取れぬ。しかし、静かすぎる。もう少し、移動してみよう。慎重にな」


 さらに、数区画分歩いてみるが、とても静かで、夕暮れの景色と相まると寂しさを感じる。さて、どうしたものか、とパンナとモヒートは交差点でどの方向に進むか考えていると、遠くから声がした。


「おーい、そこの子供ぉ~!どうした~?」


 一人の中年男性が声をかけてきた。二人は緊張した。最大限の警戒をしつつ、パンナが話した。


「アタシたち、さらわれて逃げてきたんです。どこをどう来たか、全く分からなくて気付いたら、この場所にいました」

「なんだと、人さらいか。相手の姿は?」

「それが、後ろから袋を被せられたので見てません。ここはどこですか?」


「周囲を山々に囲まれた王国の庶民街。昔は多くの人がいたんだ。今は、あまり多くない人数が残っている」

「何が起きたんです?」

「気になるかい?近くに集会所がある。食事も出来るぞ、寄っていきなさい」

「・・・はい」


 パンナは、あっさり断ってしまうと強引に連れて行かれそうな気がしたため、集会所に行くことにした。今は、まともなモヒートがいるので、さらなる心配しなくてもいい、とも考えた。


 案内された集会所は、2~3分歩いた所にある。中には誰もいなかった。


「今日は、配給の日だから出払ってるんだよ。荷物受け取らなきゃいけないからね。ま、温かい飲み物でも飲みながら、話をしようか」

「ありがとう」


 中年男性が飲み物を二人に出すと、椅子に座り、コップを両手で掴み、じっと見ている。


「そういや名乗ってなかったね、オレは『あかつきたみ』代表のドストルという者だ。さっきも言ったように、この庶民街は昔は大勢の人が住んでいた。王国の警備兵だけでは、たまにある揉め事に対応してくれなくて、王国が動いてくれないなら、自分たちで解決するしかないってことになり、自警団を組織した。それが、暁の民。夜から明け方まで警備のため巡回していたから、そんな名が付いた。ある日、我々が夜中巡回している時、そう、隣の高台に職人と商人が住む地区があるんだが、そこまで足を延ばした時に大変なことが起きた。何かが落ちてきたんだ、ベチャッ!ベチャッ!って」

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