第26話 暁の民

 あかつきたみ代表のドストルは、庶民街の住民が極端に少ない理由を語りだした。


「月明かりもない夜で、なんだか分からないものが至るところに落ちて、ひどい悪臭。我々自警団は、住民救出も大事な任務。庶民街に戻ろうとした時に、巡回していた別の班が『来てはダメだ、高い場所にいろ!』と叫ぶんだ。夜光石照明をかざすと、道に多くの人が倒れ、もがいていた。屋内にいた人たちも外に出て苦しんでいる。水で洗い流したら、呼吸が楽になるのでは?と意見もあったが、近寄れば確実に我々も同じ結果となり、身動き出来なくなり息絶えただろう。商人たちと状況を見守るしかなく、夜明けと共に悲惨な現状を見させられた。ベトベトした液体が庶民街の大半に降っていて、泡を吐いて倒れている。この地域は明け方になると、特有の吹き下ろしの風が吹くのでお城から南に向かって流れ、緑色のモヤが消えていった。その後の救助は悲惨な光景しかなく、多くの人が遺体として確認され、かろうじて生きていた者も長くは生きられなかった。王国政府に報告に行ったが救援と原因調査は大した事はしてくれなかった」


 大きなため息を吐き、温かい飲み物を飲んで、どうにか気を落ち着かせるドストル。そして、続きを語った。


「王国は動いてくれない、救助には限界がある。そんな中、助けてくれたのが反王国のエルドラド大佐だった。元々、鉱夫のリーダーでもあったエルドラド大佐は、事故対応に俊敏だった。何でも、そのベトベトした液体は、反王国の人々が目撃しており

ヒッポリー湖の主ヒポが城に向かって吐き出した怒りだとか。一大事だ!と、反王国は率先して助けにきてくれたんだ。また、腐乱した遺体がさらなる病気を招いてしまうことを知っておられたので、庶民街西側にある鉱山近くに反王国隊員の方々と埋葬して丁重に弔ってくださった。その鉱山は、あまり産出量が多くなく、捨てられたような場所だったから、大規模な墓地として丁度良かった。それからは、反王国側は

食料等救援物資を送って頂き、救われた。今も配給という形で食料を定期的に提供してくだされる。今日の配給も、そうなんだよ」


 パンナとモヒートは、背中がビクッとなった。培養体として逃げ出せて数日。もう出くわすのか?魔人となったエルドラド大佐と何の作戦もなく戦うのは無謀すぎる。


「あの~、ちょっと伺いたいのですが~、今、空き家になっている場所を宿代わりに使わせて頂くことって出来たりします?」

「ほとんどが空き家だから構わないけど、この集会所の2階に泊まるという手もあるぞ。1階に暁の民自警団がいるから、防犯上問題なし。どうよ?」

「えへへ、ウチの弟みたいなのがですね、知らない人が近くにいると眠れなくて」

「あれ、あんたたちは姉弟じゃないのかい?まぁ、構わないけど、なるべく近くにしなよ。何かあったら駆けつけやすいからな」

「では、探索してきます」


 パンナとモヒートは、慌てた素振りを見せないよう、ゆったりと集会所から出ていった。そして、反対側にある路地に入り、数軒先の敷地に身を隠した。


「肝を冷やしました・・・」

「いろんな根回ししてるじゃろうけどよ、初めてあった住人からエルドラド大佐の名前を聞くと、生きた心地がしないぞ、全く」

「しかし、どうしますか?借りる家は報告すべきですけど、大佐が確認しに来るでしょ」

「姿を隠す魔法はあるが、それは賢明ではない。大佐には通用しないじゃろう。極力目立たぬようにしながら、覗き見てみよう」

「地下に逃げ込めるよう通路掘りますか?」

「・・・バレそうな予感がする。考え無しの歴代大佐なら通用したがのぉ」

「そうなんですね、小細工が裏目に出るってことか」


 離れた場所から様子を伺う二人。どうするか話し合っていると、多くの足音が聞こえてきた。数台の荷車と多くの人。


 背の高く長い黒髪の女性が、声を発した。


「よーし、先頭から集会所に荷物搬入。手順は、いつも通りだ。細かいことは、ドストルに聞くように」

「了解!」


 集会所に続々と荷物が運び込まれる。


「・・・え~、どちらさまで?」

「ん、ドストル、オレだ。ぁ~、この姿は知るわけないよなぁ。はっはっはっはっ、女性の体に転移したエルドラドだ」

「な、なんですとぉ!他国でいう性転換ですかぁ?」

「いや、それ違う。簡単に言うと、ヒポに取り込まれようとして、抵抗して重症を負ったために、別の体に乗り換えるしかなかった」

「はぁぁ、信じられないけど、しゃべり方がエルドラド大佐ですなぁ。・・・しかし、お美しいお姿。絵画や彫刻で見るような芸術的でもあり、豪快かつ人を注目させるお言葉。いや~、素晴らしい」

「なんだ、ドストル、惚れたか?」

「・・・」

「はっはっはっ、頬を染めるな。ところで、ドストル。何か変わったことはないか?」

「状況は変わらず。王国側の動きはなく、夜間に探りを入れてくるようなこともありません。ぁ、子供が二人尋ねてきました。何やら人さらいから逃げてきたとかで、集会所ではなく、空いている民家で寝泊まりしたいと場所を今探してますよ」

「ほぉ、子供が二人」


 エルドラド大佐は、ある方向をギッ!と凝視した。


「どうされました、大佐?」

「その子供とやらは、通り向こうの3軒先にいるだろ?」

「どう動いているかは、定かではないので、どうでしょう」

「いやな、向こうもコッチを見ておる。ふっ、構えるか。この場でやるわけなかろう!あっはっはっはっはっはっ!」

「???」


 エルドラド大佐は、高笑いして、集会所の中に入っていった。ドストルは、周囲を見渡し、変化がないことので首をかしげつつ、大佐の後をついていった。


 通り向こうの3軒先、塀の内側では、パンナが杖を地面に突き立て、いつでも魔法攻撃できるよう準備していた。塀の隙間から覗いていたモヒートが言う。


「完全に気付いてましたね」

「エルドラド大佐は、ヒポを食った。正確には取り込んだわけじゃが、感覚も鋭くなっている。肉体が元々強く、それに魔力が増大し鋭敏な感覚、まともにやりあおうとしたら、二人がかりでも良くて王国領土半分が崩壊かな」

「反王国側しか、生き残らないわけですね」

「そうじゃ。我々の培養体機能が、高純度水晶で増強されていても、やはり、エルドラド大佐の体組織が元にあるため強かろう」

「・・・ドリィとイスイが、どういう所が特化していたかなんて考えられなかったですもの。培養体になることも見当もしないことですし」

「アタシらの目的は、『あの場所から逃げて生きる』ことじゃからな。アタシの体組織を使ったからと言って、不死が継承されたかは分からん。ドリィとイスイの体組織があるから、今があるし、あの二人も一緒に生きている。簡単にエルドラド大佐に潰されてたまるか・・・」

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