第36話 城の地下室
逃げ延びるため掘り進んだ地下。その先に行き着いた王国の城の地下の石積み壁。形勢を立て直すため、しっかり呼吸ができる場所を求めるパンナとモヒート。石積み壁の先に何があるのか調査に入る。
モヒートがしゃがんだ高さにあたる石が、地下室空間に落ち込んだため土が流れ込んだ形跡があった。その場所の土を、ゆっくりと取り除いた。
パンナとモヒートは、息を殺しながら覗き込む。仄かな灯りが見えるが、どのような空間なのか見えない。倉庫か、牢獄か。
「ちょっと待ちな、夜光石照明でほんの少し照らしてみよう」
パンナは、カバンから夜光石照明を取り出し、夜光石を指で弾き、その刺激で薄っすらと光り始める。それを隙間から照らしてみた。しかし、薄明かりでは、ぼんやりとしている。ただ、奥まで明かりが届かないので、中は大きな部屋であることは確認できる。また、動いている影や照明に反応する姿もないので、危険は少ないと判断した。
「よし、モヒート、中に突入しよう。石積みの撤去と土による固定を同時に出来るか?若干、息苦しさが出てきたので危ないかもしれぬ」
「分かりました、やりましょう」
モヒートは、地下通路側の石積み間にある土を接着するよう固定し、パンナが石を外していく。その作業を繰り返し、ようやく子供が通れるほどの穴が開いた。
「証拠を残さぬよう、土は、はたき落として」
「白っぽいの着てきちゃったんで、すごい汚れ方ですね」
「洗濯のしがいがあるってもんよ。さて、侵入するぞ」
パンナが先頭で地下室空間に入った。モヒートは、薄く土壁を作って、いつでも撤退出来るようにする。足音をたてないよう進む。パンナは、一旦しまった夜光石照明を取り出そうとカバンに手を入れた時、か細い声がした。
「・・・そこにいるのは、誰?今日は、水の日?」
暗闇に目が慣れず、仕方なく夜光石照明を取り出し、手で明るさを抑えながら地下室を照らす。部屋の中央によく分からない物が積まれ、仕切られている。そこを迂回すると、照明が灯る地下室廊下とこの部屋を仕切る鉄格子が見えた。さらに回り込むと、ベッドが見える。
「誰かいるのでしょう?誰です?給仕の方?」
弱々しい声がする。意を決して、パンナは近付く。モヒートは、地下室廊下の方を向き、誰か来ないか警戒する。
「答えては、くれないか・・・城の亡霊か・・・」
パンナは、薄明かりを声の方に向け、愕然とした。
「何か明かりのようだけど、何のようです?また実験するの?」
「・・・姫さまですか?」
「確かに、姫ではありました。もう何年前のことでしょう。コホッ、コホッ」
「お待ち下さい、水をまず飲まれてはいかがか?」
「・・・はい」
パンナは、ベッドに横たわる人物に革袋に入れていた水を飲ませる。そして、モヒートに話しかけた。
「モヒートよ、この積んである物の内側に土壁を作ることは可能か?」
床に手を置くモヒート。そして答えた。
「この床にある石ごと持ち上げて、壁にしましょう。天井に着くまで持ち上げますか?」
「頼む。夜光石の明かりを強めたいんでな。それと、廊下の警戒も継続してくれ」
「了解です」
モヒートは、地形操作で静かに床石を持ち上げ、合わせて音が漏れないよう密度を高めた土壁を作った。
「何事ですか?誰なんですか?モヒートとは?あの方は亡くなっておられます」
「お待ち下さい、スノゥ姫。少し明かりを増しますので」
パンナは、夜光石をコンコンと強めに弾き、閉ざされた空間を少し明るくした。
「うぅ、目が痛い。いつぶりの光・・・、私の名を呼ぶのは誰?久しぶりに知らぬ人から呼ばれました」
「・・・お久しゅうございます。アタシです、バヴァ・ロアでございます」
パンナは、涙が止まらず、必死に声を絞り出すが、頭を上げることが出来なかった。また、手が震え、夜光石照明を床に落とした。
「バヴァ・・・懐かしい響き。しかし、声が幼すぎる。バヴァは不死で不老ではない」
「はい、確かに不老ではないため、老婆の姿になっておりました。命が終わる前に転移して、培養体にて蘇っております」
「そうなのですか?私は身動きが出来ません。近くに来て、顔を見せてください」
「はい、近くに参ります」
パンナは、涙を拭い、ようやく顔上げ、ベッドに近付いた。
「あぁ、近くにいるのが分かるのに、目が霞んで、よく見えない。私は、不老不死をいいことに、もういつ頃からか、水しか与えられてないのです。水だけで生かされている。それでも、命が終わらない」
「お待ち下さい、混合回復薬があります。まずは、回復を優先しましょう」
パンナは、カバンから小瓶を取り出し、スノゥに少しずつ飲ませた。
「ウォェ、この独特な味。あぁ、バヴァがよく作っていた物ですね、思い出します。もう1本ありますか?」
「えぇ、喜んで。ぜひ味わってくださいませ」
少し笑みが出たパンナ。混合回復薬を2本飲んで、深く深呼吸をしたスノゥ。
ぐぅぅぅぅ
スノゥのお腹が鳴った。
「姫、少しパンをかじってみられますか?」
「パンが、あるのですか!」
パンを一欠片ちぎり、パンナはスノゥの口に入れると、水を与えた。ゆっくりと咀嚼し、一筋の涙を流し、飲み込むスノゥ。
「いつ振りか分からないほどの生命の実感です。霞んでいた目が、はっきり見えるようになってきました。・・・バヴァ、
「姫さま、これでも8~10歳程度の大きさはあります!姫は、あの頃のお顔立ちですね。やつれておられるのは、十分回復できましょう」
「でも、ヒポに食われた手足は戻りません。それに、もう片足まで奪われたのです」
「なんですって?」
「私が右の手足を失っているのに、逃走を防ぐために、左足首の腱を切られたのです。この環境で不老不死として生き続ける、そもそも不老不死を望んだわけでもないのに」
「確かに、アタシも選びも望みもしなかった。王国の研究者として、魔法と錬金術の組み合わせた実験の最中、同じ実験室にいた別の班が爆発事故を起こし、さまざまな色の光が我々の体を通り抜けていった。生き残ったのは、我々二人だけ。ヒポに食われた部分が再生しないことに当時の国王は、がっかりされたとか・・・」
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