第7話 能力

 新たな培養体を生み出すための準備で日々過ぎていく。


 ガー坊の成長も変化し、出来ることが増えていった。例えば、食事の時、パンを口に入る大きさにちぎり食べることが出来た。また、『おはよう』『おやすみ』といったその時の行動と挨拶が一致し、自然に出るようになった。まだ、複数動作は出来ないが、トイレに行きたいと意思表示が出来るようになったことが、ドリィとイスイは何よりも喜んだ。


 ヴァヴァは、ガー坊の成長具合を見て、五感の刺激を高めるために、いろんな物に触れさせた。実験室にある鉱石のような硬い物、粒状、粉末。自然の土も乾いた時、水分を含んだ泥と感触を味わせる。触れるたびに、ガー坊は喜んだり驚いたり、表情が出るようになった。


 そんなある日、ガー坊はドリィに連れられて建物の外にあるトイレへ。ガー坊のトイレが済み、ドリィが言う。


「ちょっと、オレもトイレ使いたいからよ、そのまま待ってて」

「ウン」


 ドリィはトイレのドアを閉め、ガー坊は小さな裏庭で待つ。空を見上げ、地面を見つめ、両手で地面をそっと触れた。


「や~、待たせたな。というより、ちゃんと待っててくれたんだな、ガー坊。何してんだよ、虫でもいたか?あ゛ぁ!」


 ドリィは、裏口ドアを開け、叫んだ。


「イスイ、ヴァーさん、ガー坊が!」


 その慌てた声に、イスイはヴァヴァをおんぶして、裏口から外に出た。


「なんだい!ケガしたのかい!」


 イスイにおぶされた状態のヴァヴァが叫んだ。その声を聞いて、ガー坊は立ち上がり、両手を擦って土汚れを払った。ガー坊の足元を見ると、20cmくらいこんもりと土が盛り上がっていて、中央部分に親指くらいの大きさで輝く白いものがある。


「ん、状況が分からん。ドリィ、何を叫んだんだい?」

「あの、あのですね、オレがトイレから出て、モリモリって」

「漏らしたのか?」

「あ゛~、違~う!ガー坊が地面に手を置いてた所が盛り上がって何か光るもんが出たんですよ!」


 イスイから降りたヴァヴァは、杖で盛り上がった土をつついた。ガッチリと押し固められたような硬さで簡単には崩れなかった。しかし、その頂上付近にある白いものを突くと、ぼろっと崩れ、白いものが転げ落ちる。危険物じゃないか、ヴァヴァは白いものを杖で転がす。


「それってもしかして・・・」

「そうじゃ、イスイ。水晶のかけらじゃな」


 ヴァヴァは、言いかけたイスイに答えた。ヴァヴァは、その水晶を拾い上げ、手触りや光にかざしてみたり確認をしていた。


「ヴァヴァさん、それってガー坊が作り出したってことですか?」

「どうかな、掘り当てたって感じかもな。この辺は、元々が水晶が出やすい場所。この場所も山を崩して町を作ったのなら、敷地内で見つかってもおかしくはない。ただ、『どうやって』という所が謎じゃ」


 皆、ガー坊を見るが、ガー坊は、ぼんやり空を見上げていた。


「ガー坊や、もう一回、水晶を見つけてくれんか?」

「オ~」


 ヴァヴァに言われると、ガー坊は、3歩ほど奥に移動し敷地の塀近くまで来た。両膝をついて、両手を地面にそっと置く。そうすると、両手の間にある土がググッと盛り上がりだし、10cmほど高くなった土から白いものが、せり出した。


「ガー坊、面白いこと出来るようになったねぇ」


 ヴァヴァは、ガー坊に近付き、背中をトントンと軽く叩いた。ガー坊は、満面の笑みで返した。ドリィとイスイは大きく開いた口が塞がらなかった。

 地面に転がっている水晶のかけらをヴァヴァは拾い上げ、じっくり観察をしている。太陽にかざしてみたり、ギュッと握りしめたり。


 イスイが尋ねた。


「ヴァヴァさん、それ本物ですか?」

「そうじゃな、水晶であることは間違いないだろう。ガー坊が作り出した訳ではなく、自然由来の水晶。しかし、品質は良くない。地表近くにあって、元は大きな形だったかもしれんが、水晶の破片であり、かけらというもんじゃろう」


 続けて、ヴァヴァはガー坊に水晶を見せながら、こう言った。


「いいか、ガー坊。お前さんはすごく面白いことをやってのけた。ただ、この水晶は濁った色をしている。水晶というのは、なかなか硬いものじゃが、こういう濁ったものは砕けやすい」


 ヴァヴァは杖を地面に置き、左手を広げ水晶を置き、右手をかざした。ヴァヴァの両手の空間が陽炎を見ているかのように揺らめいた。


 ゴリィィッ!


 ヴァヴァは、重力魔法を使い、濁った水晶に圧力をかけると、水晶は鈍い音と共に砕けた。


「いいかい、ガー坊。こういう濁った色の水晶は不純物があるので、砕けやすい。加工する時も、割れやすく捨てられることもある。もっと透き通っていたり、独特の輝きを放つ物をお前さんは見つけられるようになるじゃろな」

「ウン」


 ガー坊は頷いた。


「・・・なんだか妙なことが出来るんだな、そのガラクタは」


 4人が声の方を向くと、エルドラド大佐が裏口ドアに立っていた。ドリィとイスイは、即座に姿勢を正し、敬礼した。


「聞いとったんか」

「あぁ、途中からな。『廃坑に入りたい』って言ってた準備がようやく出来たから、作らせた荷車と採掘道具を持ってきた。しかし、ヴァーさんよ、そのガラクタの妙な力は、転生させた誰かの能力と思うか?」

「ここしばらくガー坊の行動を見る限り、やはり、6人分の特性が備わったことではなく、混ざりあった唯一の存在でしかない。何十人連れてきて合体転生したところで、培養体に入り込んだら、1体でしかない。キメラのようなツギハギで作られた姿でくっつけたんなら、また結果が違うかもしれんがね」

「キメラを作る気はないな。前後に頭部が3つずつあって、手足が12本くっついてても、不便でしか無い」

「それぞれの頭が考えることが出来るならば、仮にリーダーがいても、統率された行動は出来んじゃろ。そもそも、培養体は『代わりの体』が目的のはず」


「あぁ、そうだ。ところで、次の培養体はどうなってる?」

「ようやく培養液が均一に混ざり、安定した状態になった。今回は量が違うから、護衛の2人にも手伝ってもらっている」

「次は、確実に頼む。ヒポ様の状況が、やはり良くない。代わりの体が必要だ」


「ただの寿命じゃろて」

「・・・軽々しく言うなよ。近いうちにヒポ様に会わせるから、目の前でも同じこと言えるかな?次は残りの手足が食われるだろう」

「やなこった。それに食われたところで、あの苔玉が寿命延びるとは思えん」

「だから、培養体を生み出せ。それと、成長をこれまでの倍以上にしろ」

「培養液濃度は十分高めているから、早いはずだよ」

「それなら、今日のうちに、培養体の細胞培養を始めろ。いいな!」


 エルドラド大佐は、普段よりも焦った表情でヴァヴァに言葉を吐き捨て、戻っていった。

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