第53話 それぞれの道

 国境検問所に一人残っていた衛兵に対応に対して、モヒートが立ち向かう。


 煌めく緑色の瞳が収まっていないモヒートは、ブタ顔衛兵の足元を岩壁の方向へ地形操作で跳ね上げ、それと同時に岩壁に大きな裂け目を作った。その裂け目に衛兵が入り込むと、一気に岩壁を閉じた。その岩壁からは、液体が染み出した。


「これ、モヒート。落ち着きなさい」

「はい、パンナ様」


「モヒート、あなたって意外と激しいですのね」

「いえ、スノゥ姫の一閃ないかづちほどの激しさはありませんよ」

「あら、イヤミを言うようになったのね」


「いえ、姫さまの一撃は、我々の救いですよ。ねぇ、モヒート」

「お救い頂きました、スノゥ姫」

「・・・私の感覚がズレているのかしら?で、この国境の門は、開けるのですか?」

「それは、今からボクの地形操作で」


 モヒートは、門を閉ざしているかんぬき部分を狙い、地形操作で地面を斜め上に隆起させた。すると、門の蝶番ちょうつがいが耐えられず弾け飛び、門自体が国境外側に倒れた。


「ほら、モヒート、あなたって激しい衝動があるのですよ。でも、通りやすくなって、言うことなしです」


 スノゥ姫が先導して、国境を通過した。


 しばらく、舗装された道を進むと、モヒートが言った。


「あの~、パンナ様?」

「なんじゃ」

「国外に出たので、パンナ様ではなく、バヴァ様とボクも呼んで構いませんか?」

「いいのではないですか?そもそも偽名ですし」

「え~、アタシが言う前に姫さまが許可出されるのですかぁ。モヒート、好きに呼びなさい」

「分かりました、バヴァ様!」


「ところで、なんで"パンナ"になったのですか?」

「それはですね、スノゥ姫。誰かの記憶で・・・」

「ちょっと待って、モヒート」

「はい、なんですか?」

「"姫"は要らない。私のことは、スノゥで構いません」

「わぁ・・・分かりました、スノゥ様。あのですね、昔の記憶で・・・」

「いや、モヒート、敬称が要らないって意味で・・・まぁ、いいです。お好きにお呼びなさい」


 それから、道中、呼び名の由来を話しながら、比較的安全な場所を探す三人。



 その頃、元城門前で体を起こす姿があった。


「はぁ~、かみなりって、あんな衝撃なんだな。咄嗟に防御魔法を連続でかけていたが、ズンビローの痺れ方と違った痺れだったな。しかし、ヴァーさんを仕留め損ねた。向こうは闘う気じゃないから、国外に出ても支障はないか、いや、いいのか?」


 エルドラド大佐に遠くから駆け寄ってくる姿が数名あった。


「大佐、ご無事ですか!」

「なんだ、お前ら?撤収したのではないのか?」

「負傷者収容後、動ける者が集まり、戻ってまいりました!」

「そうか。それなら、城内を見てきてくれ。地面が歩けず、埋まりそうなら、即撤収。使えそうなら・・・畑にでもするか。反王国改め、我々の国として再興を始める。かかれ!」

「了解っ!」



 その後、エルドラド大佐は、旧城下街に拠点を移設し、新たな王国として残った住民を従え、国を興した。元々、鉱山がある領域であるため周辺の山々を調査すると、新たな鉱山が見つかり、訪れた人々を労働者として雇い、貿易を行なって、国を発展させていった。その利権を求めて、攻め入る者に対しては、魔人の力を大いに見せつけ、滅ぼしていった。また、女性型培養体であっても人として女性であることを証明すべく、多夫一妻をエルドラド大佐は選んだ。体力が無尽蔵に近い魔人である事からか、多くの子をはぐくんだ。中には浮気する夫がいたが、その後、姿を見る事がなかった。・・・エルドラド大佐は、心臓を丸呑みする事を好む。



 あの三人は、どうしているのか。


 山々に囲まれた土地で育ち、他国を知る環境になかったので、三人で旅をした。さまざまな文化に触れ、海を見ることもできた。培養体である三人は、身体的成長が時間がかかるようで、何年経っても、わずかに背が伸びる程度。人さらいに襲われることもあったが、それぞれの得意(特異)な手段で撃退した。


 旅を続けると、山があり、海があって、綺麗な水が流れる環境に出会い、三人は定住を決めた。モヒートの地形操作で岩山の強固な岩盤をくり抜いて住居を作り、そこには、バヴァとパンナが望んだ研究施設がある。忌み嫌った不老不死、それに関わって出来た培養体技術。その応用としてバヴァとパンナが発展させたのが、救える・救われるべき生命ならば再生させる技術。不慮の事故により失った手足を培養体技術により移植し、新たな手足として補う。また、相手の素性を知り、三人で判断して、救われるべき生命ならば、培養体に転移させ、生命を継続させる。当然、倫理観の違いで訴えもあったが、バヴァとパンナの非常に細か過ぎる説明に反論する材料は無くなっていった。


 ある日、三人の研究施設に嘆願書があった。


「バヴァ様、培養体の依頼が入っております。病弱な幼子、高齢の政治家、事故による欠損した青年です」

「そうか。研究員を派遣して、状況確認じゃな。両親が存命なら、体細胞を取って培養体作成は可能。高齢の政治家は、どうじゃろな。周囲から期待されておる実績のある人物なら、検討するがな」

「腹のうちは、分かりませんもの」

「えぇ、スノゥ様。検討期間は、長めに取りますぞ」


「それほど、長生きしたいんですね」

「モヒートよ、それも人の欲じゃ。アレもしたい、コレもしたい。望みが強い者からこそ、せいに対してこだわり、執着する。また、それが無い者もいる。我々が見定めるのに難航する点でもあるな」


「そういや、あれから随分経ちますが、我々は生に執着してないのに、容姿が変わらないですね。もしかして・・・?」

「可能性はある。モヒートとアタシは不死、スノゥ姫は不老不死の継続じゃな」

「私は、長寿にこだわり無いのですが」

「培養体を作っても、短命な体組織もあります。これも、生まれ持ってのその人の体ゆえのこと。何がどうあれ、与えられた体で生き抜いてみることです。その結果、長寿であったな、と分かることでしょう。まずは、その体で生きねば。まずは、それからです」



 それから、300年。

 三人は、大人の姿になり、生き続けている。





終わり


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長生き老婆とガラクタ少年 まるま堂本舗 @marumadou_honpo

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