第4話 言い争い

 ヴァヴァは、何気なくエルドラド大佐に質問していた。


「・・・大佐は、いつから王になる気になったんだい?」

「ん、オレは一言も言ってない。協力してくれる奴らが勝手に持ち上げてるんだろう」

「でも、反王国側の代表格じゃろ」

「そうだ。オレたちは国のために、この鉱山で必死に働いてきたが、あの落盤事故の時、何の救助もなく見捨てた。生き埋めにされた仲間たち。それを助けたのが、鉱山の町だけでなく、王国の水瓶でもあるヒッポリー湖の主であるヒポ様だ。そして、このオレにヒポ様は恩恵をくださったことで、人以上の能力を授かった。だから、恩義を返さねばならん。国民のことを考えない腐った王族と国自体を変える必要があるんだ。分かるだろ、何度も話してきたことだ、ヴァーさん」


「あの化け物に体を食いちぎられたアタシに、何を理解しろってんだい・・・」

「ヒポ様を討伐しようなどと無謀なことをしたからだろう」

「王国への飲水に化け物の汚染物質を混入させ、国民を大量に病気にしたから、討伐隊が組まれたんだ」

「ヒポ様はな、あの大きな体で湖の汚染を溜め込んでくださった結果、体が腐敗し、いろんな菌を取り込んで逆に利用し、どうにか体を形成し保っておられるのだ。だが、その限界も近い。だから、様々な生物の細胞を培養して体を作り出し、ヒポ様の入れ物として使うんだ。そもそも『不老不死になった』という情報を元にヴァーさんともう一人の魔法使いを食らえばヒポ様の体が再生されるはずだったんだ」


「だから、それは偽情報だったんだよ。確かに、錬金術やら実験の中でアタシともう一人は爆発事故にあい、アタシは不老、もう一人が不老不死になった。しかし、湖の化け物討伐で食いちぎられたが、アタシの足は再生されない。もう一人は化け物に半身を食われ、王国に運ばれた。アタシは、アンタらに捕獲された」

「それを踏まえて、不老不死を培養体に組み込んで、永遠の命を与えた状態でヒポ様を培養体に転移させたい。転生じゃないぞ。記憶を引き継いだ状態で、培養体に魂を転移させるのが、最終目的だ」


「何度も話してきたが、不老不死は不可能じゃ。一定年齢から細胞を維持させ続ける再生と回復能力。そのような生物がおらぬ。いたとしても、培養体に取り込み、定着するのは未知の話」

「こっちも何度も言わせんなよ、安定した培養体を何度も転移すれば、ある意味、不老不死だろ。だから、培養体をしっかり作ってくれって言ってんだろう!」


 大柄な大佐と小さな老婆が、殴り合いを始めそうな言い争いがまた繰り返されていた。


「こんな大きなガラス筒を用意したところで、培養体が形を保てず、朽ちるのを何度も見ただろう!」

「ヴァーさんの知恵を出し惜しみしてんのは分かってんだよ。これまでの研究記録から、培養液の配合次第では成長速度を上げられる。ただし、心肺機能が追いつかない。そこに鉱山から産出する水晶を利用し、水晶の一定振動を心臓近くに埋め込み、培養体から発する微弱な電気信号を水晶が受信し、心臓に振動を与え補助機能とする。走り書きの紙は実験室に残さず、しっかり食べて記憶しておくべきだったな」

「それを見たから、事前にガー坊の体内に水晶を埋め込んだのか?貴重だったろ、変わった緑色の水晶」

「あぁ、ヒポ様の体内から生み出された水晶。『ヒポ水晶』のおかげで、上にいるガラクタは生存している。いいか、ヴァーさん。このガラス筒で大型培養体を生み、育てさせろ。その結果次第で、ヴァーさんとガラクタはヒポ様の延命材料となり、食われることになる」


「余命宣告か」


「そういうことだ。実験の途中経過は聞きに来るが、勝手に覗きもする。隠し事は無しだ。オレは分かっているぞ、ヴァーさん。その垂れ下がった瞼の隙間から、鋭い眼光が見えている。まだまだ秘密があり、何か企みがあるな。妙なことすると、バレるからな」


 そう言い残すと、エルドラド大佐は、実験室から去っていった。


「培養体に必要なまともな細胞をよこせってんだよ。混ぜ合わせてみないと、細胞分裂が始まるか分からないのにさ」


 言いたいことだけ言って去ったエルドラド大佐に対して、ぼやくヴァヴァ。念のため、ぼやいたとも言える。実験室内に盗撮・盗聴する魔道具が仕込まれている可能性があったからだ。

 杖をつきながら、重苦しく歩く芝居をしつつ、壁際にヴァヴァは移動した。


「全く、死ねる体になりたいもんだねぇっ!」


 杖を壁に打ちつけ、微弱な雷魔法を流した。弾け飛ぶような変化が無く、どうやら地下室には、情報を盗む道具は設置されていないようだ。


 ヴァヴァは思った。


 どうやら、アタシに残された時間というのが限られているのは事実。あのヒポ様という化け物に食われるのはありえるだろう。これまで誤魔化してきたが、アタシの血肉を使って培養体を試さないといけないだろう。それと、動いているガー坊も使う。

組み合わせてみれば、アタシが不老ゆえの一般とは異なる体、ガー坊の人工的に生み出し、転生体として生を受けた存在だから、その複製が出来れば、大佐の望む量産体制が可能なのか。しかし、ガー坊・・・。前例がないだけで、ガラクタと言えるのか?魔法で生み出された生物やゴーレムのような存在は実在していた。強引に6人分も精神や魂が詰め込まれれば、信号伝達が逆に混み、渋滞しているようなものじゃないか?


 仮説が多すぎて、~だろうか?ばかり浮かんでしまい、さすがのヴァヴァも脳疲労が耐えられなくなる。よろよろと階段を上がると、話し声が聞こえてきた。


「お前、バカだな~」

「やめとけよ、人じゃないんだから」


 椅子に座っているガー坊のそばに二人の男がいた。


「なんじゃ、あんたらは?」

「どうも、ヴァヴァさん。我々は、エルドラド大佐により、ヴァヴァさん監視と護衛任務の指示を受けました、ドリィとイスイです」

「こんな真夜中に、朝から監視すれば良かろう。身の不自由な老婆とまだ意思疎通出来ぬ培養体じゃ、遠くに行けぬぞ」

「我々は、ヒポ様の加護付与により、寝ずに動ける体になったので、要請があればいつでも監視業務に入ります」

「・・・寝ないでいい体というのは、寝られないということ。疲労回復出来んじゃろ?」

「ご心配なく、全くの疲れ知らずです」

「そりゃ、寿命を他より早く削っとるんだわ」

「我々はヒポ様とエルドラド大佐に忠誠を誓っているので、この命捧げる所存です!」


 ドリィは爽やかな笑顔で答えたが、ヴァヴァは洗脳に近い忠誠の刷り込みに、少し悲しくなった。

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