第2話 老婆
ヴァヴァは、並べられた死体を順番に確認していった。
「ま~容赦ないねぇ。喉元掻っ切るだけじゃなく首の骨の継ぎ目を狙って切断してる者もあるじゃないか。ほれ、首が筋肉と皮で繋がってるよ。持ち上げたら、頭もげちゃうな」
「そんな解説はいいからよぉ~、これみんな魔法使いか?」
「王国の魔法使いは、端っこにいる一人だけだ。他は護衛やお付きの者とかじゃないのかい?助手かのぉ」
「どこで判別すんだよ」
「エルドラド大佐は知らんのか?王国の専属魔法使いは、左腕上腕部内側に赤い縦線の入れ墨を入れる。縦線が増えるほど上級扱いされ、縦線5本より上は、王国の紋章の焼印を入れる。この死体は、縦線3本。今後に期待される奴だったかもな」
「中堅か。何か持ち物はあるか?」
「ここには、カバンみたいなもんもないぞ」
「・・・ハズレか。おい、待機班!側近連中が来たら、オレの所に来るよう伝えてくれ」
「了解しました!」
待機班は地上に向かい、大佐側近部隊の到着を出迎える準備に入った。
「さて、ちょっとヴァーさん左腕見せてみな」
「おやおや、年寄を口説くきかい?」
「うるせぇな、腕もぐぞ」
エルドラド大佐は、ヴァヴァの左袖を捲くった。
「ほぅ、さすが捕虜として生かされてるだけあるな。焼印まである。ただ、腕の皮膚伸びきって、だるだるだな。内出血跡とか
「皮を伸ばすんじゃないよ。ぷるぷるさせるな!」
「これだけ皮が
「150から数えておらん」
「そうか、200歳超えてる可能性もあるんだな。本当に不老不死なのか?」
「何度も説明しただろう?まず、現状を見て『不老』ではない。しっかりと年老いているじゃろ。それと、不死かどうかもそれも分からん。単なる長生きしとるだけかもしれん。あんたらの化け物に食われた左足は再生することもないし、病気もする。たまたま回復しただけで、心臓を貫けば死ぬだろうし、落下のような衝撃でも死ぬじゃろな」
「そうだったな。それを踏まえて、ヴァーさんにはいろんな研究してもらってんだからな。さて、その端っこの魔法使いを蘇生してみてくれ」
「簡単に言ってくれるねぇ。ほれ、端っこの死体を今から広げる布の魔法陣に寝かせてやってくれ」
「あいよ。・・・待機班を少し残しときゃ良かったな、地味に面倒だ」
「何言ってんだい、人ひとりを軽々と持ち上げて、前よりも体デカくなってんじゃないのかい?」
ゆっくりと布に描かれた魔法陣の中央に死体を置いたエルドラド大佐は、ヴァヴァに答えた。
「オレはな、ヒポ様の加護を受けてるからな。体はそこら辺の奴らとは違う。目的も違う」
「・・・反王国側の代表者だものなぁ。そのまま王国にいれば、どこかの隊長だったろうに」
「今、そういう話をするんじゃねぇよ。早く蘇生してくれ。尋問に時間がかかる」
「へいへい」
ヴァヴァは右手で持っている杖をかざし、左手を魔法陣に向かって反時計回りに何周も回した。魔法陣に描かれた紋様がキラキラと輝きだし、薄暗い室内が明るくなる。
「さぁ、甦れっ!」
ヴァヴァが声を上げると、魔法陣から天井に向かって光が照射し、すぐに元の薄暗い明るさになった。
「どれどれ、ぁ~、傷口が塞がっておらんなぁ」
「どういうことだ?」
「蘇生回復を阻害しているということじゃ。お主らの持つ武器は一般的な武器屋買ったものか?」
「いや、素性がバレるようなことはしないし、基本、この鉱山の町で作られた物だ」
エルドラド大佐とヴァヴァが話し合いをしていると、大佐側近部隊が戻ってきたと連絡が入った。
「ヴァーさん、ちょっと待ちな。すぐ戻ってくる」
エルドラド大佐は、小走りで地上に向かう。雨が止んだ魔道具工房入り口前には、大佐側近部隊が整列している。
「全員無事か?」
「はい、検問を避けて戻ってきました」
「そうか。今回の仕事現場で、対象の持ち物を回収した者はいるか?」
「私が1つ回収しました。このカバンです」
3号隊員が肩掛けカバンをエルドラド大佐に渡した。地面に置き、カバンを開け中身を確認したが、パンや果物といった物しか入っていなかった。
「なんだよ、雨の日にピクニックでも行くつもりだったのかぁ?あ゛ぁ!3号隊員!お前が仕留めたのか!」
「事前情報によるローブを着た老婆は、私が任務遂行しました」
「武器は、何だ?」
「作戦会議時に渡された『ヒポ様付与ナイフ』です」
「・・・・・ぁぁ、そうだったよな~」
思わず頭に手をやって空を見上げたエルドラド大佐。確実な暗殺実行のため、ヒポ様の恩恵を受けた呪具として側近部隊に大佐が渡したものだった。
「あ~、すまない。任務完了ご苦労であった。各自、休養を取るように。解散!」
「了解!」
側近部隊は、本部建物裏にある、それぞれの部屋に向かった。エルドラド大佐は、再び魔法陣の部屋に下りていった。
「なんだい、女を待たせるねぇ」
「土に戻りそうな老婆が何言ってんだよ・・・」
「いつもの威勢はどうした?」
「ぁ~、オレの指示でヒポ様の強烈な呪いを付与したナイフで暗殺実行してたんだっただよ。蘇生は不可能だ。だから、次の段階に進める」
「はぁ、やるのかい?」
「準備出来てるんだろ?」
「アタシじゃ運べないから、転生させたい死体を選んで、用意した魔法陣布に置きな」
「この魔法陣じゃ狭いだろ」
「何言ってんだい、1体しか置かないのに十分な広さがあるじゃないのさ」
「死体は6体あるんだ。一度に全部使うだろ。もう、臭い出してんだからよぉ」
「これまで、培養体への転生は成功したことがないから地道に続けるもんじゃろ!」
「あのさ、ヒポ様の時間に余裕がねぇんだ。あらゆる状況を試してもらう。その6体を同時転生だ。1体くらい入り込めるだろ」
うなだれるヴァヴァ。
「隣の実験室から、培養体を6体の頭の方に運んでおくれ」
「あぁ、分かった」
エルドラド大佐は、大きなガラス筒を叩き割り、中に入っていた培養体を強引に運び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます