第9話 隠していた手法

 ヴァヴァは、残りの2つの体組織も接合する細胞の組み合わせを変えながら試した。しかし、うまくいかなかった。


「細胞が、しばらくすると動かなくなる。接合は、うまくいってる。2つに分解しないし、動いているから、命が生まれてるものだと思うんだけど」

「なぁ、ドリィ、限られた環境と条件の中でやってるが、決定打が分からない」


 ドリィは、しゃがみこんだ。

 イスイが、ヴァヴァに質問した。


「あの~、なぜガー坊はうまくいったのですか?」

「・・・分からん。これまでと同様だったからな」


「嘘を言うな」


 実験室の入り口付近から、とても低い声がした。


「エルドラド大佐に敬礼!」


 ドリィとイスイは、エルドラド大佐に向かって姿勢を正し、敬礼をした。


「狭いところで、そこまでビシッと敬礼せずともよい。ところで、ヴァーさんよ、隠し事があるだろ?そのガラクタ生み出した合成方法は普通じゃないよな?なぁぁ!」


 エルドラド大佐は、ビリビリと響く声でヴァヴァを恫喝した。そして、つかつかと歩み出し、エルドラド大佐は左手でガー坊の首を絞め、軽々と持ち上げた。


「ヒポ様の体が本当に弱っている。このガラクタの体内にあるヒポ水晶をお返しすれば、延命につながるだろう。もう、よかろう?ガラクタが生存できた結果は得られたのだから用済みだろう?」


「グァァァァァァァァ」


 ガー坊の首が絞められ、苦しむ声が響く。首の骨を折ろうと思えば、簡単に出来るエルドラド大佐は、あえて苦しめることでヴァヴァの出方を見ている。しかし、判断としても最終段階。ヴァヴァが適当な返事をすれば、ガー坊を始末する気だ。


「やめな。ちょっとは感づいているんだろ?」

「しゃべる気になったか?言えよ!ガラクタの首は細い。呼吸器官も、ろくに使えてない。処理するのは簡単だ」

「分かった。ガー坊を下ろしてくれ」


 エルドラド大佐は、手を離し、ガー坊は床にグチャッと落ちた。ドリィとイスイが、ガー坊に駆け寄り、状態を確認している。


 ため息をつき、ヴァヴァは話し始めた。


「はぁ、最近の話じゃ。細胞接合の際、微細ナイフでアタシの指先を切ってしまい、培養液に数滴血液が混じった。そのまま雷刺激を与えたところ、細胞分裂がこれまで以上に進み、そして分裂が停止した。だから、アタシの体組織を採取し、実験に使った。しかし、安定しなかった。育たぬ。ヤケになって、細胞を三等分し、中心部分がアタシの細胞で上下をそれぞれ別の細胞を組み合わせ接合した。それで、初めてうまく育ったのが、ガー坊じゃ」


「ということは、今後も三等分でいくのか?」

「違う。結果として、ガー坊しか育っておらぬ。あんたらが回収してきた体組織は、どこから得てきている?状態が悪いものも多いことは、これまで伝えてきている通りじゃが」

「種族はさまざまだが、大半は人間。家畜の体組織を採った者がいたが、それには指導を行なった。ヒポ様は二足歩行を所望されている」

「それならば、鮮度だ」

「そうか、それなら生きたまま連れてこないとなぁ」


 ヴァヴァは、エルドラド大佐含め特殊部隊の体組織採取の雑さを改めて感じていた。採取は、太い注射器に似た道具を対象に突き刺し吸い取る。生物の組織が傷み、腐る知識や管理等考えの浅さも知ってはいたし、何度も生きている体組織がどれだけ繊細かも伝えてきたが、何度となく口論になって終わっていた。

 これまで、ヴァヴァは不死である体をどうにか処刑されぬよう生きながらえさせ、反王国の街から脱出することを考えた。そのため、うまくいかないと分かっていた培養体実験を続けて、厳重な監視体制の隙を伺う。しかし、不自由な体が思うようにいかない。


 もう、やるしかない。この場での時間が限界に来ている。


「エルドラド大佐よ、これまでやってこなかった実験をやるのはどうかな?」

「なんだよ、策があるのか?」

「生きた体組織を使う。これまで、反王国の活きの良い隊員たちの体組織を採取してこなかっただろ?なぜじゃ?」

「ん?理由は無ぇよ。よそから探してくることが指令だったはず、ヒポ様の器になる体だから優れてる方がいいだろ」


「その言い分だと、『あんたらは優れてない』と自ら言っているようなものだぞ」

「嫌な言い方してくるな」

「分からんのか?ヒポに忠誠を誓う者たちが、体組織を差し出さずしてどうするか。優秀な隊員たちなんだろ?」

「あぁ、そうだよ。オレたちは、ヒポ様の恩恵から得た力で、王国に立ち向かっているんだ」


「では、エルドラド大佐、ドリィ、イスイ、あんたたちの体組織を頂く。半分の接合細胞はアタシの体組織を使う。まったく人体複製技術が楽ならいいんだがね、短命だし、体が弱く脆い。どうしても、培養体が現時点での最善だ。いいかい、アタシを脅したんだから、あんたらも覚悟を決めな」


「時間が無ぇから、試すしかないだろう。お前らも、体組織を差し出せ。その結果がヒポ様への忠誠となる」

「了解です」

「承知致しました」


 ヴァヴァは、エルドラド大佐から体組織採取装置を3つ譲り受け、それぞれの腕から体組織を採取した。


「なんだよ、結構痛ぇな」

「何言ってんだい、大佐、散々他人様の体組織を奪ってきておいて。我慢しな!」


 ドリィとイスイも痛みで苦悶している。

 ヴァヴァは、採取した体組織を採取装置ごと専用冷凍庫に格納した。そして蓋付きガラス皿を用意し、培養液を入れる。


「ヴァーさんの体組織も今取るわけだよな?オレがやってやるよ」

「お返しに苦痛を与えてやろうって考えかい?やなこった」


 椅子に腰掛けると、ヴァヴァはローブの左側を捲くり上げた。


「ほう、ヒポ様に捧げた左足か。ご丁寧に木を削って布を巻き付けて、こういう義足にしてんのか」

「踏ん張るのも、最近じゃ筋力が衰えてきた左足だよ。ほれ、大佐、採取装置を渡しな。自分でやる」

「遠慮しなさんな。御老体じゃ腕力が足りない。こういうのは勢いがいるんだよっ!」

「んん゛っ!この嗜虐者しぎゃくものめぇっ!」


 エルドラド大佐は、採取装置を引き抜く際、少しねじりを入れた。そのせいで、ヴァヴァの左太ももから多くの血が流れ出る。


「おい、若手二人、よく見ておけ。不死と言っても、傷口が即座に塞がるものではない。年老いたなら、回復に時間がかかる。やはり、不老の効果も必要だ。常に細胞が活性化し、その年代を保つ。その力が王国側にあるらしい。なぁ、ヴァ-さん」

「アタシは、長いこと反王国側に閉じ込められ情報がない。そんなこと分かってるだろう」


 ヴァヴァは、回復魔法を自身にかけ、傷を塞いだ。

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