第17話 混乱

「おい! お前らの相手はあいつだ! 

こっちへ来るなら叛逆と見做すぞ!!」


 周りを取り囲む兵士の一人が叫んでいる。そちらへ向かう盗賊がいるようだが、おそらくアンデッド化した奴だ。

 どうやら、敵味方の判断がつかなくなるらしい。猛スピードで兵士に駆け寄ったと思うと、信じられない跳躍力で跳びかかる。


ドシュッ!

ドサッ


 兵士の槍が空中の盗賊の腹を捉え、そのまま地面に叩きつける。同時にミシッと、槍の柄の部分が悲鳴を上げる。



「な、なぜ、、、ひ、ひぃぃぃぃっ!」


 槍を刺した兵士が恐怖に竦み上がっている。槍が刺さったままの盗賊が、何事も無かったかのように立ち上がり、そのままグイグイと前進しようとしていたからだ。


「き、き、きききさまぁー!」


 右隣にいた別の兵士が、盗賊の脇腹を突こうとするが一瞬早く盗賊が前に出る。胸に刺さった槍が背中側に突き抜けたのだ。

 そのまま間合いを詰めて刀で兵士に切り掛かる。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 兵士はたまらず槍を手放し、逃亡しようとするが、腰が抜けて尻餅をついてしまう。そこへ盗賊が切り掛かろうとするところに、


ドスッ!

ドシュッ!!


 両脇から別の兵士たちが槍を突き込んだ事で盗賊の前進は阻止できたが、致命傷どころか苦痛すら与えられていないようだ。

 とはいえ、盗賊の動きを封じる事に成功したと思われたのだが、


スパン

ガコン


 盗賊はいとも簡単に槍の柄を剣で切断してしまう。柄は木製とはいえ樫の木である。それをどうみても量産品の剣で一閃したのだ。


 あっけに取られる兵士たちを尻目に、尻餅をついた兵士に跳びかかると、その胸に剣を突き刺した。


「ぐ、ぐ、ぐあぁぁ、あ、がぁ、、、」


 致命傷を負った兵士は断末魔の声を上げるが、そのトーンが急激に下がり、苦悶の表情を作る筋肉も脱力していく。


「お、おい! 死んじまったのかよ。」

「こいつ! なんなんだ!!」


 槍の柄を斬られた2人が、後退りながら腰のサーベルを抜き盗賊に切り掛かる。


ギイィン


 盗賊の首を捉えたはずのサーベルが弾き返された。オーラを突破出来なかったらしい。


「くそっ! なんてオーラ量だ。 

 ならば、刃が届くまで削り切ってやる!」


 やっきになって切り掛かる2人は、その背後で静かに立ち上がるモノに気が付いていなかった。


「ぐぷっ、、う、ふぅ、、ぐがっ!」


 兵士の一人が食いしばる歯の隙間から、血が流れ落ちる。その背後からさっき死んだはずの兵士が槍を突き込んでいた。


「お前! 何してやがる!」


 異変に気付いた他の兵士たちが集まろうとするが、


「来るなぁ! 一旦離れるんだ!!」


 戦っている兵士がそれを止める。

 盗賊と兵士の2体のアンデッドの攻撃に晒されて、後退する事も出来なくなっていた。


 そして、今、刺されたばかりの兵士も、その表情を失いながら、こちらを攻撃しようと向きを変えている。


「う、うわあああああ!」


 恐怖の限界に達した兵士は、アンデッド達に背を向けて一目散に逃げ出すが、一瞬で距離を詰められると、あっという間にアンデッドに加わった。


 さらに、あちこちから悲鳴が上がる。アンデッド化した他の盗賊達も、近くの兵士を襲い始めた。


「首だ! 首を切り落とせ!!」

「ダメだ! オーラが厚すぎる!」


 パニックが広がっていく。

 整然と周囲を囲っていた100人を超える兵士達が、烏合の衆と化していった。


「ぎゃはははははっ! お前らも働きやがれ!!」

「ベデルさん! やめてくれぇ! 言われた通りやるから!!」

「ん? ってこたあ、今までは命令を無視してやがったんじゃねえか!!」


ザシュッ!!


「ぐああああああぁぁぁ、ぁ、、ぁ、っ、、、」


 バンダールの兄貴ことビデルは、手下達に難癖をつけたりつけなかったりしながら、異様なオーラを纏った剣でアンデッドを増やして行く。


ジャギィィィィィン!


 俺たちに迫って来た盗賊アンデッドの首をレーベンのバトルアックスが捉えた。だが、オーラに阻まれ切断には至らない。


「なんだ? こいつらのオーラ量は、、、」


 クリーンヒットが通用しなかった事に、動揺を隠せないレーベンに、


「こいつら、首の周りだけオーラが分厚いんだ!

手足を狙って無力化しろ!」


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