第13話 エンチャント
「やっぱりわからん。ただ、相手に接触された瞬間に、ガラスが砕けるような音がした。3回ともだな。」
これまでに発生したオーラブレイクは3回。全て、相手が俺に触れた瞬間に発生しているのは間違いない。
「俺と握手をした時は、なんともなかったんだ。他に誰かと接触したか?」
ナッケンが言う通り、握手した時には発生していない。
「いいや。ヴァイゼルとは接触してないし、なにしろ、まだこの世界に来て数時間しか経ってないから、他に触れた人間はいないはずだ。」
「そうなのか! それにしちゃ落ち着きすぎてねえか?」
レーベンが目を丸くした。話が逸れそうなので元に戻す。
「敵意とか害意を持った相手だけに反応してるのかもな。」
と、適当な事を言う俺に、
「そんな都合のいい条件分岐のできるスキルは聞いたことがない。どっちにしろスキルの解析はヴァイゼルが専門だ。奴の意見を聞こう。と言うか、知ってる事を吐かせよう。」
と、ナッケンが場を収めるのだった。
レーベンがロングコートバッファローの血抜きをしている。冒険者ギルドに持ち込めば、買い取ってくれるらしいが、良い状態で解体してあると値段が上がるらしい。
その間にナッケンはギルドに報告に行っている。自分たちで運ぶには、獲物が大きすぎるので応援を呼ぶらしい。
ランクの低いハンターや、貧民街の子供達にとっては、小遣い稼ぎのチャンスなんだそうだ。
「でもよう。わざわざ莫大な魔力を使って呼び出されたんだろう?
この世界にだって強え奴はゴロゴロいる。なのに、そいつらじゃあダメだから、ムートは召喚されたんだろう?
ならさあ。この世界には存在しなかったスキルかなんかを期待されてるって事じゃねえのかなあ。」
脳筋かと思ったら、意外に理詰めで鋭い事を言う。
「そういやレベルが上がったんじゃないか?」
レーベンに言われて思い出した。魔物と戦ったんだった。
ちなみに、人間と戦ってもレベルは上がらないらしい。体が鍛えられたり、体捌きを覚えたりして強くはなるが、ステータスには反映されない。
レベルは11になっていた。一気に上がっているが、スライム1匹で1→5だった事を考えると、あんまり上がってない気がする。
「ああ。ロコバーが目を覚ますと厄介だから、俺がトドメを刺しちまったんだ。
初めて倒したモンスターから貰える経験値にはボーナスがつくんだよ。でも、トドメを刺さなきゃボーナスはつかないから、今回はお預けってわけだ。
次にロコバーに会った時にムートがトドメを刺せば、ちゃんとボーナスは貰えるから安心しな!
それと、ある程度はオーラも回復しただろう?」
『ロ』ング・『コ』ート・『バ』ッファロ『ー』でロコバーなのか。でも、レーベンにしか通じない略語じゃないだろうなあ。
しかし、初回ボーナスがあるのか。そういえばスライムを倒した時に、経験値100倍とか、声が聞こえたな。
今回はそんな余裕がなかったから、レベルアップにも気付かなかった。
俺もオーラブレイクされたはずなんだが、レベルアップ分のオーラは回復したらしい。
「そういえば、ナッケンの矢はロコバーに弾かれたんだが、明らかに動きを鈍らせたんだ。あれもスキルなのか?」
ふと思い出したので聞いてみた。
「兄貴はシュペートの矢を使ったのか! 結構、高いんだぞ。それだけ、ムートの安全を優先したんだろうな。
さっき、ムートも覚えたシュペートの魔法を込めた矢を使ったんだよ。」
「魔法を矢に込める?」
「そうさ。エンチャントって言うんだ。俺たちはエンチャントのスキルは持ってないから、武器屋でエンチャント済みの矢を買ってくるのさ。」
そこまで言うと、レーベンの顔色が変わった。さっきロコバーが飛び出して来た茂みの方を睨んでいる。
「ムート。こいつを使え。」
と言って腰に下げていた短剣を渡された。
「敵か? モンスターか?」
尋ねる間に、茂みから1人、また1人と武装した男たちが姿を現す。
「さっきの店の奴らの『返し』か!」
と言う俺に、
「いや。もっと悪いやつらさ。」
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