第12話 ロングコートバッファロー

「じゃあ始めるぞ! まずは普通に戦ってみてくれ。」


と言うなり、森の方へと駆け出して行くレーベン。


 俺たちは街を出て、街道外れにある草原へと来ていた。低級冒険者向けの狩場らしい。

 スライムとか、角のあるウサギとかを狩るのかと思ってたんだが、、、


「おーい! 行くぞー!!」


 森からどデカいレーベンの声がしたと思うと、メキメキバキバキと不穏な音が猛スピードで近づいて来た。


「あんのバカがっ!!」


 慌てたナッケンは横っ飛びしながら高速で弓を構え、茂みに向けて矢を放った。

 その瞬間、巨大な毛むくじゃらの獣が茂みを飛び出し、俺の方は向けて猛スピードで突進してくる。

 その脇腹の辺りにナッケンの放った矢が当たるが、刺さらずに跳ね返された。


「逃げろ!」


と、ナッケンが叫ぶが、背を向けて逃げたらそれこそ命はないだろう。ギリギリでかわすしかない。


 獣は頭を下げ、生えていたツノを俺に突き出すように突進してくる。


 まだだ! まだギリギリまで引きつけないと、簡単に追尾される。


バシュッ

パシッ


 ナッケンがもう一発、矢を放つが結果は同じだった。ところが、明らかに獣の走る速度が落ちている。

 これなら行ける!


 ツノが俺の胸に刺さる直前に、体を捻って直撃を避ける。わずかにかすった瞬間に、


ガシャーン


とガラスの割れるような音がして、俺のオーラは全て崩れ落ちる。

 獣の長い体毛が風になびき、ギリギリでかわした俺の体に当たる。

 たかが毛だが、かなりの衝撃を受け、俺は弾き飛ばされるように倒れた。

 が、同時に


ガシャーン


 獣のオーラが砕け散り、突然、前脚に力が入らなくなった様子で、顔面から地面に突っ込んで行くように倒れるのだった。


 慌ててナッケンが駆け寄ってくる。俺は意外にも擦り傷程度で済んだようだ。


「ムート! 動くな! オーラブレイクされてんだろ!」


 確かにオーラは無いが、体に問題は無い。


「俺は大丈夫だ。それより、その獣を仕留めないと!」


「そうだったな。こいつもオーラブレイクされてるようだが、全く、傷はついてないようだな。

 ライクスと同じ状態ってわけか。しかし、いつまで目を回していてくれるかわからんな。」


 獣の様子をナッケンが確認していると、


「おーい! 上手く行っただろう! さすが俺だな。」


と、呑気にレーベンが茂みから出てきて、獣の方に駆け寄ってくる。


ボカッ


 何も言わずにナッケンがレーベンの顔面をぶん殴った。


「いっっっっっってぇぇぇ!!!!

 なにすんだ!!!!!!」


「それはこっちのセリフだ!

 ロングコートバッファローなんか追い込んでんじゃねえ!!!」


 今、ナッケンがレーベンを素手で殴ったな。オーラを無視して。


「なんだよ! 美味しい獲物じゃねえか!!

晩飯にもなるし、金にもなるし。」


「ムートは初めてなんだぞ! この辺じゃ最強の魔物をいきなりけしかける馬鹿があるか!!」


「あっ! そういやそうだった。」


 なんか不穏な事を言っているようだ。


「まあ、なんとかなったんだから良かった良かった!」


「ちっとは反省しろ!」


ゴン


「いってえ。」


と、ナッケンはレーベンの頭にゲンコツを落とすが、さすがのレーベンも逆らわなかった。


「なあ。なんでオーラが守らないんだ?」


 疑問をぶつけてみた。


「ああ? こいつを殴った事か? 

 俺たちはパーティを組んでるからな。オーラは支援魔法や回復魔法も弾いちまう。だが、パーティを組んだ奴同士だと、弾かれなくなるんだ。

 攻撃魔法や物理攻撃も体に直接当たっちまうから同士討ちだけは避けなきゃいけないんだ。

 ただ、パーティからの離脱は自分の意思で瞬間的にできるから、騙し討ちに使うならよほど上手くやらなきゃならない。まあ、信用できない奴とはパーティを組まないのが基本だな。」


 やっぱり、いろいろとゲームっぽい世界だ。他にもルールがあるんだろうな。


「それよりも、どうやってこいつを倒したんだ?

 全く外傷は見当たらないんだが。」


 レーベンが、倒れているロングコートバッファローの体を調べながら尋ねて来た。

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