第28話 昇格

「『試験官の生存者無し。』どういう事かね?

 盗賊はともかく、ミッテル百人長とその配下103名、全てが死亡するような事態にあって『問題なし』とは?」


 ヴァイゼルが、他の賢者達に詰問を受けている。


「必要な処置が生じた為、対処したと言う事です。」


 悪びれもせずヴァイゼルが答える。


「だから、それを具体的に説明せよと申しておるのだ!」


 別の賢者が苛立たしげに言う。


「フュンネル様。では申し上げますが、あなた方がムートの捕縛命令を出していた。それも『生死問わず』と条件をつけて。

 つまり、彼は命の危機にあったわけです。」


「だからと言って、皆殺しは過剰防衛であろう!?」


 これが『賢者』? 武装した百人に襲わせておいて、反撃されたら相手のせい?


 そして何より


「しかも、その命令は未だ解除されていないわけですよね?」


 フュンネルは一瞬、何を言われているのかわからない様子でポカンとする。


「ミッテル達は全滅なのだろう? 命令も何もないではないか。」


「いいえ。まだ『あなた方』が生きています。」


 冷ややかな目線を向けるヴァイゼルに対し、


「『試験』を提案し、実行したのはフュンネルの独断だったな。」


「な、なんと? アインベック殿?」


 わかりやすく梯子を外されて狼狽えるフュンネル。


「では『私が命を預かる者たち』を害するような命令は、フュンネル殿が独自に出されたわけですな。

 そして、それは今も取り下げられていない。」


「うむ。間違いないな。」


「そ、そ、、そんな、、アインべ、、、、、」


 フュンネルは最後まで言葉を発する事が出来なかった。その首がごとりと落ちたからだ。


「ひ、ひいーーーー!」


「どうされました? フィーニエン様。」


 声をかけたヴァイゼルへと振り返るフィーニエン。その表情は怯え切っている。


「フュンネル殿とフィーニエン殿はとりわけ気が合うようでしたからな。よく二人で密談しておられたではないか。」


「ド、、ド、ドライウッド殿!

 確かにフュンネル殿は同志であり、友人でもありましたが、今回の事に私は関わっておりません。

 友人が突然亡くなったのですから、動揺するのも当たり前かと。」


 なにが友人だよ。

 『敵を討つ』とか、言い出す気概も無いと分かり、あからさまにため息をつくヴァイゼルだった。


「結構。では此度の試験は、『殺意を持った全ての試験官を討伐した』で、『合格』と言う事で異議はございませんか?」


 俯き青ざめているフィーニエンと、身じろぎもせずヴァイゼルを直視する3人。


「沈黙を持って『是』と受け取りました。

 今後、ムートは正式に『対魔王兵器』とし、決戦に向けて私の判断の元で準備を進めます。」


「よかろう。賢者会議の全会一致で承認する。それで良いな?」


 苦々しげな表情を隠すようにアインベックが宣言するが、


「私は反対です!」


 凛とした若い女性の声が響いた。


「き、貴様、、なんのつもりだ!?

 賢者会議の場であるぞ!」


 話を蒸し返されては困るフィーニエンが、大慌てで咎める。

 しかし、


「良いのだ。フィーニエン殿。彼女はキンスラ次席賢人。賢者会議に空席が出来次第、賢者に昇格する予定だったのだ。

 たった今、席が一つ空いたので、その時点より賢者会議の正式なメンバーとなり、発言権を得たのだよ。」


 アインベックが説明する。

 どうやら、フュンネルが死ぬ事は折り込み済みだったらしい。悔しさを滲ませたのも演技だったと言うわけだ。

 ヴァイゼルが何も言わなくても、兵士たちの死の責任を取らせるつもりだったのだろう。

 食えないにもほどがある。


「ヴァイゼル様、お久しぶりでございます。」


 恭しくキンスラがカーテシーを決める。


「シンカ! なぜ、、、」


 珍しくヴァイゼルが動揺している。


「もちろん。あなたのお役に立つ為ですわ!!」


 満面の笑みだが、その瞳はどこか虚な影を宿していた。

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