第29話 考察

「では、皆殺しはサラの判断だったと言う事だね。」


 ムートと、仮面で顔を隠した女性の2人が城門をくぐると、ナッケンとヴァイゼルが待ち受けていた。


 ヴァイゼルがサラと呼んだ女性が『試験』の顛末を報告すると、冒頭の発言をヴァイゼルが返すのだった。


「ええ。全員が『感染者』でしたので、やむを得ぬ処置でした。正教会からも、その旨、賢者会議にお伝えする事になるでしょう。」


「そうですか。それは適切な判断だったね。しかし、賢者会議がそれを把握していたとは思えないねえ。君達が処理できなければ、感染者が街に押し寄せる事態になっていたかも。」


「ほとんどの者が発症前でしたので、感染は『試験』の直前でしょう。」


「もしかして、パンデミックを起こしたい者がいるのかもしれないね。そして、その責任を私たちになすりつけようとしたのかも。」


「なぜ、そのような事を? 理解の及ぶ動機が思いつきません。」


「権力に取り憑かれた者の思考など、ご都合主義の塊だからね。都合よく捻じ曲げ過ぎてて、他者からみると到底理解出来ないのさ。」


「では、それを阻止した我々は、逆恨みの対象となるのでは?」


「そうだね! きっと何か仕掛けてくるよ!!」


「なんで、そんなに嬉しそうなんですか!?」


 サラがため息をつく。

 2人の会話がようやく一段落ついたところで、俺が尋ねる。


「あの男はどうするんだ? レーベンが様子をみてるんだが。」


「ああ。彼は君とレーベンに任せるよ。何があったのか訊いてみてくれるかい? 呪いはサラが解いたんだろう?」


「はい。それは確認済みです。」


「あの大男の方はムートが始末したんだよね?」


 やっぱり、ヴァイゼルもどっかでみてやがったんだな。


「ああ。ほっとくとアンデッド化するって本人が言うから、その前に首を落とした。」


「あのぶっとい首を怪しげなオーラで守ってたんだよね。どうやってぶった斬ったの?」


 細かいところまで、よく見てた事を隠す気はないらしい。


「オーラブレイクしたら、瀕死になったんだ。

 恐らく、あの魔剣で攻撃されると、生命力を無理矢理オーラに変換されるんだと思う。

 バンダールは異常な回復力を持っていたから、何度傷つけても回復力が上回ってるようだった。

 しかし、オーラを一気に失った事で、回復能力もほとんど失ったようだ。」


「だが、それにしては、そこからしぶとくなかったか? 心臓を貫かれても倒れないどころか、ミッテルの奴まで仕留めたからな。」


 レーベンの疑問に、


「俺のシュペートが関係しているのかもな。バンダールに抱きつかれた時、俺の体や装備にかけていたシュペートがまとめて接触発動したのかもしれない。

 バンダール自身は元々動きが遅いから見た目の変化は少なかったが、体内の血液の流れなどには強く作用していたのかもな。」


「ふむ。面白い考察だね。

もしかすると、ムートがシュペートを極めると、すでに致命傷を負った者の死期を遅らせる事ができるかもしれないって事になっちゃう。

 これは、僕たちだけの秘密にしとこう!」


「それと、ベデルが生きてる事もだ。」


「そうだった。爺さん達に知られたら、また、変な横槍を入れてくるだろうね。彼らにはなるべく大人しくしててもらわないとね!」


 なにやら、さらに楽しげな様子のヴァイゼルにサラが告げる。


「そろそろ、そのお爺さんたちの所に赴いた方がよろしくありませんか?」


「そうだった! 嫌な事って忘れがちだよね!!」


「忘れた事にしたいだけでしょう。」


 ずっと黙っていたナッケンがようやく口を開いた。


「あはははっ! その通りなんだけどさあ。

 ちゃんとお仕事はやるけど、、、」


 ヴァイゼルが俺たちに背を向けて歩き出すと、少しだけ眼光が鋭くなる。


「嫌なもんは、嫌なんだよね。」

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