第30話 ベラ
俺は塔の中の部屋に戻っている。
「見張りの兵士は残ってるけど、君の監視じゃなくって護衛だから安心してね。
僕も色々あってさあ、敵が多いから、僕が君のケツモチだって認めさせてはいるんだけど、だからこそ君を始末しようとする奴らがいるんだ。
とはいえ、護衛よりムートの方が強いだろうし、警報装置くらいに思っとけばいいよ! 敵が来たら騒ぎにくらいはなるからね!」
と、さわやかイケメンスマイルでさらっと非道な事を言う。命懸けの仕事をしている兵士を警報装置扱いしているのだ。
「じゃあ、詳しい話は明日。城下に君の家も用意するから、それまで窮屈だけど我慢してね。
おやすみ!」
一方的に捲し立てると、ヴァイゼルが警報装置に一声かけて出て行った。
扉が閉められ外からかんぬきをかける音がする。
やれやれ。ようやく休めるのか。召喚からほとんど動きっぱなしだったからな。だが、前の世界よりも疲れが少ない気がする。
肉体の状態が良いのか、それとも、この世界の空気とか環境が良いのか。そのうち、わかるだろう。
「失敗者、、、、か、、、。」
バンダールたちの事を思い出していた。バンダールとベデルの母親は、俺と同じように別の世界から召喚されて来たのだとベデルから聞いたのだ。父親が違うらしい。
2人の母親であるベラさんは戦闘向きの能力を持っていなかった為、城からあっさりと追放されたらしい。
しかし、容姿端麗だったベラは城下のレストランで給仕係として採用されると、客として訪れた隣国の商人に見そめられ結婚する。
だが、夫婦で率いていた商隊が盗賊に襲われ、商人は殺され、ベラは拉致された。
その盗賊の頭目がベデルの父親だ。
盗賊に攫われた女性の運命は、一味の男達の慰み者にされた後、非合法の奴隷商に売り飛ばされればマシな方だ。もっと悲惨な運命を辿る者の方が多いだろう。
しかし、頭目はベラに一目惚れしたらしく、手下達には指一本触れさせなかった。やがて、ベデルを身籠り、誕生するが、ベラが頭目に心を開く事は無く、洞窟の中の牢獄に閉じ込められていた。ベデルもその牢獄で乳を貰っていたらしい。
授乳の必要が無くなると、ベデルは引き離され、ベラと会う事も禁止されたが、それでも監視の目を盗んで、時折、会いに行っていた。
ある時、監視が用足しに持ち場を離れた際、うっかり牢の鍵を置いて行った。
ベデルは牢獄から母を逃してしまう。監禁で弱った戦闘能力のない女性など到底生きて出られることのない森の中のアジトから。
頭目が逃亡に気付いた時には、すでにベラはオークの群れに囚われていた。巣に拉致され、繁殖欲の旺盛なオーク達に蹂躙されていた。
怒り狂った頭目はオークを狩り尽くしたが、手下の被害も大きかった。そして、ベラは身籠っていた。
ベラはオークの仔と分かっていても、産む事を選んだ。頭目は激怒し、胎児を殺そうと何度もベラの腹を殴ったり蹴ったりしたが、オークの生命力は胎児であっても健在だった。
ついには胎児を殺せると言う怪しげな薬を手に入れ、ベラに無理矢理飲ませたが、妊娠1ヶ月で死産したはずの胎児が、生きて生まれて来たのだ。
バンダールだ。
実は、オークの仔を孕むと、胎児が大きく成長しすぎてやがて母体の子宮を突き破って生まれて来るため、母体は死んでしまう。それを、無理矢理早産させた事で、ベラは助かったのだ。
しかし、それがベラにとって幸運だったのかは別だ。
もう、頭目にベラへの愛情など微塵もなかった。メスのオークと呼び、手下達に犯させては、下卑た笑いを撒き散らした。
そして、3歳で180cmほどにまで成長したバンダールにもそれを見物させていたのだ。
すると、バンダールは手下達の真似を始めたのだ。それを見て、頭目は腹が捩れるほど笑った。
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