第31話 降参
ベラは死を望んでいた。しかし、それも許されなかった。頭目の満たされぬ歪んだ愛情がそれを許さなかったのだ。
バンダールは初めて自分を見て笑った父親に、もっと笑って欲しかった。だから、父の望むまま、殺し、奪い、犯した。
ベデルはそんな弟を恐れ、侮蔑していた。
しかしやり過ぎた。瞬く間にその盗賊団の存在が知れ渡り、同業者たちや周囲の村々から恐れられた。
最初は腕自慢の冒険者達がやって来たが、悉くバンダールになぶり殺された。
続いて軍を率いた貴族が討伐に現れた。数百人に及ぶ大部隊がアジトの洞窟に到着した時、すでに一味の姿は無かった。
恐れを為して逃げたのだと思い、引き上げようとした貴族の脳天に巨大な岩が落ちてくる。洞窟の上にある岩棚に、バンダールの姿があった。
脳天どころか、体全体を潰された貴族を見て、統率を失い、烏合の衆と化した兵卒たち。それらを、森を知り尽くした盗賊達は、様々な罠とゲリラ戦術で討ち取って行った。生きて森を出られたのは20名にも満たなかったそうだ。
盗賊達は調子に乗った。もう、自分たちを討伐できる者など存在しないと思い込み、村々を蹂躙して回った。奪う物が無くなれば街にも迫った。
ある時、たった4人のパーティが森を通ろうとした。一人は若い女らしい。頭目はすぐさま手下たちを向かわせた。
しかし、見張り役も含めて、誰も帰って来なかった。
頭目は、バンダールとベデルを向かわせた。20人の部下をつけて。
しかし、4人組が現れたのはアジトの方だった。
油断していた頭目に矢が打ち込まれる。掠っただけだったが、みるみる頭目の顔色が悪くなる。明らかに毒矢なのはわかったが、なんの毒なのかわかる手下はいなかった。
すると、4人組のリーダーらしき優男が勧告して来た。
「急所に当てなかったのはわざとだよ!
致死性の毒だから、どっちみち死ぬけどね。でも、僕たちの仲間に聖女がいる。もちろん、彼女なら直せる毒を選んで使ったんだよ!
おとなしく捕まってくれるかい? そしたら、命だけは保証するからさあ。」
「ふざけんな! そうやって拘束しておいて殺すつもりだろう!」
頭目の取り巻きが叫ぶ。
「それは君たちの常套手段だろう? 僕たちはそんなセコい手を使う必要無いんだよね。強いから。」
事もなげに返答する。
「なら、力づくでやってみろ!!」
と叫んで飛び出そうとする取り巻き達に、
「ま、、ま、待て、、、、」
青白いを通り越して、真っ白な顔色の頭目が手下達を止めたのだった。
しかし数瞬遅れて、一番威勢の良かった取り巻きの左胸に、オーラをいとも簡単に貫いた矢が突き刺さる。
ごぶっ
大量の血を吐いて取り巻きが倒れた。
「おいっ! 止めろ!!」
そう言う別の取り巻きの左胸にも、矢が突き刺さり、倒れた男の下に血溜まりが出来た。
「おやおや。抵抗しないのならもっと早く降参の意思を示さないと。全員殺されたら、降参する意味もありませんよ?」
わざとらしくとぼけるヴァイゼルに、盗賊達は怯え、手にしていた武器を慌てて放り投げるのだった。
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