第32話 リケ
「はい。みなさん。静かになるまで5分かかりました。そんな事ではいざという時に命を落とす事になりますよ。彼らのようにね。」
嫌味たっぷりに先生ごっこを始める優男。
「私たちがこの森を通ったのは偶然なんかじゃありません。当たり前でしょう? あなたたちの悪行は知れ渡ってるんです。だからこそ、縄張りを広げなきゃならなかったんですから。
そんな所にのこのこ、若い女性を連れた4人組が現れたら、なんかあるに決まってるじゃないですか。なのに、文字通りよだれを垂らして襲い掛かろうとした。
0点です。あなた達に知性はありません。従って、人格も必要ありません。全て、ぼっシュートです!!」
言われている意味がわからず、ぽかんと口を開けている盗賊達と、限界を迎えて白目を剥く頭目。
「ああ。そうそう。うっかりしてました。
頼みますね!」
一行の紅一点に声をかける。彼女は鼻から下の部分を布で覆い隠していた。
声を発する事もなく、右手に持っていた錫杖を掲げると、シャリンと音が鳴る。
すると、頭目を囲むように地面に円形の光が現れると、それがみるみる立ち上って行く。
意識を失いながら、苦痛に満ちていた頭目の表情が柔らぐ。しかし、意識は戻らず、地面に倒れたままだ。
(騒がれると面倒ですからね。)
ここまで全て優男の計画通りだった。
「さて、ザコの皆さんは全員集合です。来ない人は死にます。即効性の毒は親分さんに使用しましたが、全員に遅効性の毒をあらかじめ散布してあります。
嘘だと思うならどうぞご自由になさって下さい。死にたくない人はあちらに並んで、ハンコ注射を受けて下さいね。」
一行の女性と、もう一人男性が適当な台を見繕って、そこに一列に並ぶよう、手下達を誘導している。
「はんこ注射」がなんなのか、盗賊たちは分かっていないが、女性が自分の腕に射って見せると、少し安心した様子で列に並び始めた。
「さて、こちらは任せましたよ!
私たちはお迎えに行きましょうかね。」
優男ともう一人の男が、出て行ったバンダール達の方へ向かうようだ。
「おいっ! 俺たちをどうするつもりだ!!」
盗賊の一人が、優男が背中を向けた途端に声を上げる。後ろからなら誰が声を上げたか分からないとでも思ったかのように。すると、
「わかりませんか? いつでも殺せたあなた達の命を、わざわざ助けてあげているのです。つまり、使い道があると言う事。それも、これだけの手間をかけるだけの価値がある仕事をさせようとしてるんですよ。
しかしこの程度、自分で察っせませんかねえ。私はシャシャる馬鹿が何より嫌いなのです。
いいでしょう。あなたには注射は無しです。列から放り出しなさい!」
列に並ぶ他の盗賊達に指示するが、戸惑うばかりだ。
「あなたたちも注射はいらないと言う事ですね!
ではもうよろしい。引き上げます。」
あっさり4人で出て行こうとする。
「ま、ま、、待ってくれ!
わかった!! こいつは追放する。言う通りにする。」
「聞き分けの良い賢い人は好きですよ!
あなたに免じて許して上げましょう。あなたのお名前は?」
「リケだ、、、です。」
「よろしい。リケは私たちと一緒に来て下さい。
さっきの奴は森に放り出しておけばいいでしょう。
残りの者は列に戻って。リケさんに感謝なさい。」
優男ともう一人の男は、リケを伴って、バンダールたちを迎え討ちに向かって行った。
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