第33話 洞察

「僕はどうなってもいい。兄貴と母さんは助けてくれ。」


 バンダールは優男を見るなり、明らかに知性の籠った眼で訴え出た。


「ほうほう。これは面白い。

 報告では、野獣程度の知能しか無い凶暴な者だとありましたが、まさか演技だったとはね!

 あなた。家族にも隠してますね! だからこそ我々の調査の目も掻い潜った。

 実に優秀です!!」


 優男は喜色満面だ。

 ベデルや手下達は、バンダールがまともに会話できる事に驚いている。


「しかし、賢こいのも過ぎると考えものでしょう。我々には敵わないと言う判断は良いとして、ならば、なぜ、あなたはその2人を連れて逃げなかったのですか?」


 優しい口調とは裏腹に、威嚇するような鋭い視線を送る優男に対し、


「僕はあなたが来るのを待っていました。『賢者会議』なのでしょう?」


「ほう!? それをどこで?」


 優男が目を細める。


「聞かされたのですよ。『賢者会議』にね。」


「『我々』が事前に伝えていたと? そんなはずはないのですよ。なにしろ、、、」


 優男が他の3人に合図をすると、全員が戦闘態勢を取る。


「『私』は独断で動いているのですから。」


 その表情から偽りの笑顔が消えていた。


「『僕』は『ユウキ』と同じところから来た。」


 優男が目を見開く。


「まさか、、、、ふ、、、ふ、、はは、、、ははははっ!」


 突如笑い始めると、


「それはそれは! ようこそラウムツァイトへ!!

 まさか、『彼』の友人だったとは思いもしなかったよ。では、この世界にこれから起こる事も知っていると言うわけだね?」


「ええ。聞かされました。」


「ならば、私にも教えてくれるんだろう?」


「それはできません。」


 優男の眼が鋭くなる。


「おやあ? 2人の安全の為になんでもしてくれるんじゃないんですか?」


 優男の発言を聞き、バンダールがフフンと鼻をならす。

 それを見た優男の顔色が変わる。


「随分と愚かな態度だねえ。とても、『賢い』とは思えないよ。『実験動物』としては価値があると思っただけだったんだが、もしかして、君が持っている情報ごときで優位に立ったとでも思っているのかい?」


 バンダールは悪びれもせず、


「あんたは『賢者』なんかじゃない!

 あんた、察しが悪い奴が嫌いなんだろう? なら、なんでそんなに自分自身は大好きなんだい?

 ヒントは多すぎるほど出したはずだ。なのに、なぜ僕が『話せない』のか、察する事が出来ないどころか、脅せば喋らせられると思ってる。」


 優男は奥歯を噛み割らんばかりに食いしばり、バンダールを睨みつける。


「その程度の奴に『ユウキ』を、『未来』を託せるわけがないだろう!!」



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