第34話 バンダールの正体

「お、お前っ!

 本当にバンダールなのか!!」


 ベデルは突然流暢に喋り出した、父親違いの弟に驚愕の表情を向けた。


 バンダール達は『カモ』の収穫に行くよう、頭目に命令されて、森の中を進む途中だった。

 しかし、普段はヘラヘラしながらついてくるバンダールが、突然立ち止まって動かなくなったので、ベデルは鞭打とうと近付いたのだったが、その時、思いもかけない言葉をバンダールが発したのだ。


『これは罠だ。』


 三大欲求しか頭に無いはずの弟が口にするには、あまりにも信じがたい事だったのだ。


「ベデルの兄貴。僕は『もう一人』のバンダールだ。」


「頭がおかしくなったのか?

 いや、元がおかしかったから、急に良くなりすぎたのか。」


 困惑するベデル。


「僕は表に出ないようにしてたんだ。きっと、みんなそうなると思ってね。」


「じゃあ、お前が馬鹿じゃなかったからなんなんだ?」


 バンダールへの侮蔑の眼は、すぐには消えない。


「この先には誰もいない。もう、オヤジは殺されているだろう。他の連中も皆殺しか、捕縛されているはずだ。」


「おい! 適当な事をほざくな!!

 もし、それが本当だとして、なぜ、もっと早く言わなかった!!

 見殺しにしやがったのか!?」


 激昂するベデルに。


「もう、俺たちの皆殺しは決定事項なんだ。だから、少しでも価値のある事に残された時間を使いたい。

 協力してくれ。」


 真剣な眼で訴えるバンダールに、


「ふ、ふ、、ふざっけんじゃねえよ!

 俺が死ぬってんのか!! オヤジ達が全滅だと!!

 そんなわけねえ!! 俺たちは無敵だ!!!」


 いくらベデルがいきりたっても、バンダールは冷静だった。


「そう。無敵と思い上がってやり過ぎた。貴族に手を出してただで済むわけがない。

 だが、そんな『普通』の理由で殺されるわけじゃないんだ。」


「なんだと?」


「『それ』を望んだのは『お袋』だ。」


 一瞬、ベデルの息が止まる。みるみる顔を紅潮させる。


「お前は狂ったんだな! いやただのほら吹きか!!

 お前やオヤジは殺したいだろうさ!

 でも、俺がなんでお袋に殺したいと思われなきゃいけないんってんだ!!」


 どこかで心当たりがあるベデルは、怒りながらも涙目になる。


「お袋は『召喚』のスキルを持ってるんだ。だから『奴』に追放された。

 そしてオヤジに押し付けた。まあ、最初はオヤジも喜んだだろうな。だが、全て『奴』の手のひらの上だったのさ。」


 頭が冷めて来たのか、ベデルは一旦黙り込むと、


「続けろ。」


 静かに言う。


「お袋は『戦闘力が無い』って理由で勇者パーティから追放されたんだ。わざわざもう一つの世界から『転移』させたのにな。兄貴もお袋から聞いた事があるだろう?」


 ベラは正気を失ってからは、焦点の合わない眼で、恨み言を言うようになっていた。その中で過去の事をあげつらうのだ。


「おかしいと思わないか? 

 『転移』に比べれば『召喚』は遥かにコストが軽い。その能力者を追放するなんて。」


 冷静になったベデルは、バンダールの話をバカにする事なく受け止めていた。


「しかし、お袋の能力はショボいと判断されたんだろう? だから追放されて親父が拾ったって、お前が言ったんじゃないか?」


「ああ。だが『召喚』だ。どんな条件があろうが、激レアの能力者。役に立つまいが、最悪、飼い殺しにはするだろう?

 それに、100人もの命と引き換えの『転移』を当てずっぽうでやるわけがない。」


 冷静な頭で判断しても、やはりバンダールの発言は異常だった。


「なんで、そんな事をお前が知ってるんだ?

 この盗賊団で暴れ回る以外、森から出た事もないはずだぞ!?」


 バンダールは決意を込めた眼でベデルを見つめると、


「今の僕は、お袋が召喚した人間だからだ。」


 はっきりと告げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る