第35話 器
「お袋が『召喚』を発動するには、条件があるんだ。」
「条件? なんだそれは。」
「『絶望』だ。と言っても予想だけどね。」
「あてにならん話か。」
「そうでもない。お袋が『召喚』を発動させたのは2度。1度目は僕を孕んだ時。そして、2度目は僕に犯された時だ。」
「どっちもテメェ絡みじゃねえか!!」
「そうだ。だが、長い間、大勢に蹂躙され続けたお袋が、その2回だけは特別だった。だから召喚が発動したんじゃないか。」
「つまり、それだけ『最悪』だったって事か。」
オークに近い形質を受け継いだ、極めて表情の分かりにくいバンダールが、明らかに辛そうな顔を、していた。
「オークがお袋を犯した時、召喚が発動して僕が異世界から腹の中に呼ばれたんだ。信じられないかも知れないけれど、今、兄貴とまともに話せているのが証拠さ。」
「オメエは異世界から召喚されたって話か!? そんな話が信じられるか!!」
「それでも、信じて貰うしかない。だって、お袋は2度目の召喚で、とんでもないものを召喚してしまったから。」
「とんでもないものだと? 封印されたって言う魔王でも呼び出したって言うのか?」
「もっとヤバい奴さ。『召喚』には絶望が必要だって言ったけど、もう一つ、必要なものがあるんだ。」
「もう一つ?」
「ああ。『うつわ』さ。僕が召喚できたのは、オークの器があったからだ。普通の人間の胎児、それも着床すらしていない受精卵が、人間の精神を受け入れるだけの『容量』なんてあるわけないからね。」
「じゅせいらん? ちゃくしょう?」
「ああ。言葉の意味は今はいいよ。とにかく、俺はオークの胎児の異常な早熟性によって、この世界に定着できたんだ。」
「お前、本当にバンダールなのか? 賢いにしても度が過ぎてやがる。」
ベデルの疑問をスルーして続ける。
「一人の体に2人分の精神が宿るには、人間の脳が耐えられないらしい。
だけど、オークの精神は質量が人間の10分の1ぐらいしか無いから、一つの体に人間とオークの精神が同居しても耐えられるらしい。というか、耐えられたから僕がいる。
この体はほとんどオークだけど、人間とのハーフだから、純粋なオークよりは『容量』が大きいんだって。」
「ほとんどわからねえ。オメエの中に、今のオメエとオークのオメエがいるって事なのか?」
「それだけ分かってもらえれば充分かな。
今の僕は脳への負担が大きいし、みんなも驚くだろうから、普段はオークの精神が体を支配してる。今は隙をついて交代してるんだ。
だけど、それもじきに出来なくなる。オークの精神が成長してきてるから。僕が出てくる『隙間』がなくなって来てるんだ。
だから、その前に兄貴に伝えておきたい。」
「これ以上、頭の悪い俺に何を?」
「今、アジトに来てる奴が、もう一人の召喚者って事を。」
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