第36話 決意
「もう時間が無い。お前たちも聞いてくれ!
敵は『賢者』だ。もう逃げるすべは無いだろう。だから、一人でも生き残る為に行動をして欲しい。」
一際、大きな声でバンダールが一同に呼びかける。
「多分、僕は殺されない。奴らの狙いはお袋の能力だ。今の所、能力の発動には僕が関わっているから。
だから、あいつらは僕が止める。君たちは何としても生き延びるんだ。」
「しかし、どうやって? 勝ち目はねえし、逃げるのも無理なら命乞いでもしろってのか?」
ベデルが問う。
「あいつは、役にたつと思えば殺さない。だから、力を見せるんだ。その後に恭順する。
組織立った抵抗をするんだ。3人一組となって、迂闊に手を出さず兄貴を守る。」
「おうっ! それなら即席でも何とかなる。」
「じゃあ、俺はどうしたらいいんだ?」
ベデルが真剣な顔で尋ねる。
「兄貴はお袋の救出を狙うフリをしてくれ。監禁場所の方をチラチラ見て、乱戦の隙をついて抜け出そうとすればいい。
多分、お袋の居場所は突き止められてる。実際に救出する事は難しいし、お袋を連れて脱出する事は不可能だ。
だから、フリだけでいい。決して無理はしないで、大怪我を負わされる前に投降してくれ。」
「わかった。それでいいんだな。」
ベデルはそれだけ言うと口をつぐんだ。
「全員は助からないだろう。僕たちはそれだけの事をして来たんだ。でも『あいつ』の好きにだけはさせちゃいけないんだ。
僕たちを利用し、罪を全て被せて、自分だけは賢者を気取る男を。」
バンダールの目に決意の炎が灯る。
「そして、このラウムツァイトすら、自分の欲望のための犠牲にしようとする男を。」
「お前、、、殺るつもりなのか!?
それなら、俺たちも加勢した方が、、、」
ベデルがいいかけると、
「ダメなんだ。僕たちではアイツを殺せない。だから、取引を持ちかける。」
「取引だと? 何を持ちかけるんだ? お袋の命か?」
「ごめん。それは聞かない方がいい。
それと、僕がまともに喋れる事を兄貴達は知らないフリをしてくれ。」
その場に沈黙が訪れた。
「ごめん。兄貴、みんな。僕たちは捨て駒だ。だが、無駄死にはさせない。だから、生き残ってくれ。」
黙って全員が首肯する。声を出さないのは、足音が聞こえてきたから。まるで、その存在を彼らに知らせるように。
「あの男。『賢者ヴァイゼル』は僕が止める。」
静かに決意を口にすると、ゆっくりと足音のした方へ歩を進める。
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「僕はどうなってもいい。兄貴と母さんは助けてくれ。」
ー 第一部 完 ー
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ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
伏線を張りまくっただけで第一部は終わります。第ニ部で回収していきますが、まだまだ伏線は増えていきます。
スッキリしないまま続いて行くと思いますが、結末だけは決まっております。
最後まで書き切れるようがんばります。
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なにが賢者だっ!クソ喰らえ!! 四十万定六 @finch3
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