第27話 決断

「あいつだ。」


 バンダールは隊長の方へ向き直り、睨みつける。


「ふん。貴様が盗賊である事に変わりは無いだろう。

 死罪が決まっているゴミを、少しだけ有効利用してやっただけだ。」


「母さんは関係無かった!!」


「頭目の嫁が関係ないわけ無いだろう?

 それに、酷い事をしたのはお前だろうが。どうだった? 母親の具合は?

 さぞかし良かったんだろうなあ! 仲間たちとゲラゲラ笑い合ってたらしいじゃないか!」


「許さない! お前だけは地獄に道連れだっ!!」


 ズタボロの長い右腕を頭上で振り回すと、隊長めがけて大上段から振り下ろす。


「馬鹿め! 届くわけないだろう!!」


 危険な範囲に最初から入るつもりの無かった隊長が嘲笑うように叫ぶ。


ブチブチブチッ!


 繊維が千切れる音と共に、俺の短剣から無理矢理引きちぎった時、ズタボロになった傷から先の腕が千切れ飛んだ。その手にハンドアックスを握りしめたまま。


ドガシュッ


「そんな、こ、、と、、、」


ドサッ!


 まるで意思を持ったようにハンドアックスは隊長の肩口を捉え、胴体の中程まで叩き割っていた。

 一瞬で生き絶えた体は、そのまま後ろへ仰向けに倒れた。


「た、た、たいちょう!!!」

「き、き、き、きさまぁーっ!!!」


 近くの兵士が狼狽えている。

 だが、練度の高い兵士たちは一旦距離をおき、隊列を組んでバンダールを討ち取る構えだ。


「今だ! あんたたちは逃げてくれ。

 あとは俺達で片を付けさせてくれ!!」


 その間にも、ベデルはバンダールを魔剣で突き刺そうとしている。


キイィン


 それを短剣で跳ね上げた。


「もういいんだ。兄貴は俺の代わりに呪いを受けたんだ。もう、解放してやりたい。

 ここで、俺たちを人間として死なせてくれ!」


「そう言う事か、、、だとよ。嬢ちゃん!」


 静観していたレーベンが声を出す。それを合図としたように、ベデルの足元からフワフワと光の粒が立ち登り始め、やがて光の柱が立ち上がった。

 ボロボロと崩れ落ちていく魔剣、呆然と立ち尽くすベデル。


「あ、ありが、、と、、、。」


 言葉を言い終える直前に、全身の傷と、口から大量の血を吹き出し、バンダールはバッタリと前に倒れ込んだ。


「おいっ! しっかりしろ!!」


 駆け寄って声をかける。


「なんでかなあ。とっくに死んだはずなのに、生きてられた。

 間に合ったみたいだ。」


「何が?」


「俺が化け物になっちまうまでにさ。

 ば、化け物になって、、、あいつらを蹴散らせるなら、、それでいいかと、、思ってたんだが、、、、やっぱり、、そんなの、、は、、、いや、、、、、だ、、から、、、、」


 バンダールのデカい瞳が俺を捉える、


「あんたに首を跳ねて欲しい。」


 もう、オーラは消え去りそうなくらい掠れている。傷の回復もされていない。もう、生命力が尽きているのだ。それでも、こいつは生きている。

 俺がそれを奪っていいのだろうか。


 一瞬の間に、何度も逡巡する。そして最後に、もし、自分がこいつだったら何を望むか。

 そして、俺は決断したんだ。

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