第26話 覚醒

「ゴボッ、グハァ、、、」


 異常な生命力を誇るバンダールとは言え、心臓を抉られては回復が追いつかない。まして、オーラブレイクをくらって明らかに衰弱していたのだ。

 もう、命の灯火は尽きるだろう。


「さっさと死ねってんだよ!

 今までお前のような化け物を生かしてやったのは、今、死ぬためだろうが!!」


 完全に瞳孔が開き、真っ赤に血走った眼で弟を睨みつける兄。


「あ、あ、、にぎィ、、、は、はや、ぐ、、、に、げ、、、、て、、、、、」


「まだ、俺に指図するつもりか!

 さっさとくたばりやがれ!!」


「グギギィがギィぃぁ、、、」


 心臓に刺さったままの魔剣を捻りやがった。

 ベデルの狙いはバンダールをアンデッド化する事だろう。だが、明らかにそれだけでは無い、ドス黒い感情が滲み出ている。

 魔剣の影響下にある為でもあるのだろうが、元の感情が増幅されているように見える。


 俺は、体に巻きつけられたバンダールの左腕を振りほどく。オーラブレイクの影響か、はたまた、ダメージの為だろうか、力を込めずともはらりと長い腕が落ちる。

 その隙を突いて抜け出すと、さっきバンダールが手放した剣を拾い上げ、ベデルの腕を狙って斬りつける。しかし、すぐにバンダールは力が入らないはずの左腕でベデルを庇い、その傷口から夥しい量の鮮やかな朱色が飛散する。


「お前、本当に死ぬぞ! それでいいのか!?」


 俺の前に立ち塞がり、ベデルを守ろうとするバンダールに問いかける。

 それまで胡乱だったバンダールの眼に光が灯る。


「兄貴は俺を守ってああなっちまったんだ。

 俺は報いなきゃならねえ。」


 明らかにそれまでと違うはっきりとした口調でバンダールが告げる。

 その背後から、また、その背中を刺そうとしていたベデルの動きが止まった。


「むっ! 盗賊どもを皆殺しにしろ!!」


 突如、隊長が命令を下す。スリーマンセルの兵士達はすぐに駆けつけてくるが、バラバラで動いていた兵士達はあっけに取られた後に、大慌てで駆けつけて来た。

 大勢の兵士に俺、バンダール、ベデルの3人が取り囲まれる。レーベンは包囲の外だ。


「おい! ムートには手を出すんじゃねーぞ!!」


レーベンが叫んでいるが、包囲の内側にいる精鋭たちは、明らかに俺にも殺意を向けている。


「すでに呪われているかもしれんのだ。判断は貴様らに任せる。」


 冷静なトーンで隊長が言い放つ。


「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 凄まじい大声を上げて、バンダールが地面に縫い付けられていた右腕を引き寄せる。

 ブチブチと繊維の千切れる音を立てながら、ズタボロの腕がバンダールの体へと呼び戻された。

 それが合図であったかのように、精鋭たちが一斉に槍をバンダールに突き出して来た。


 バンダールは体をぐるりと旋回させて、伸びていた右腕を体に巻きつける。長槍が次々とその腕に刺さる。


 長槍がバンダールの体から抜けなくなり、兵士達に動揺が広がる。


「あんたなら抜けられるだろう。逃げてくれ。

 後始末を頼みたい。」


「後始末だと!? まだ、なんかあるってのか?」


「ああ。俺を始末して欲しい。知性が戻ったのは死ぬ事が確定したからだ。

 死んだらただの化け物になる。だから、必ず始末して欲しい。血路は開いてやる!」

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