第1話 望まれぬ者

「どういうことだね?

 なぜ、『ダンパー』なんかを召喚している?」


 大きな円形の部屋の中央に裸の若い男が仰向けに倒れている。意識は無いようだ。男を中心にして、床一面に幾何学模様が描かれている。いわゆる魔法陣というものだ。


 倒れている男のそばに、張り付いたような笑顔を浮かべる優男が佇んでいる。

 遠巻きに5人の老人達が彼らの様子を窺っており、真ん中の老人が先ほどの声をかけたのだった。


「ご説明したはずですよ。彼の能力は特別なのです。魔王には極めて有効で、我々にとっては御し易い。

 理想の贄なのですよ。」


 優男が答える。穏やかな声で。


「ダンパーが御し易いのは分かる。敵を弱らせる能力しか持たないのだから。弱者でも大勢でけしかければ、無力化するのも容易いだろう。

 だが、そんな者が魔王に通用するとは思えないのだよ。」


 左端の老人が言う。


「別に、彼が通用する必要はありません。その為の我々です。」


 優男は笑顔を崩さずに答えるが、目の奥は冷ややかだ。


「君の力は知っているし、聖女サラは稀代の実力者と聞く。不浄の兄弟も戦いに関しては傑出した力を持つのだろう。

 だが、トドメを刺すのはその男でなくてはならないのだ。その程度の力は持っているのだろうな。」


 再び、真ん中の老人が口を開く。


「ええ。剣ぐらいは振れるように仕上げますよ。それにダンパーというのはそれなりに優秀ですよ。特に、単体の強敵を相手にするときには。

 ただ、決定力に欠けるのと、本当に強い者達にとって、必ずしも必要では無いと言うだけで。」


 優男の返答に、今度は右端の老人が口を出す。


「相手は魔王だぞ。甘く見過ぎてはいないのか?」


 優男は右端の老人に向き直って答える。


「魔王アルトは確かに、」


「その名は禁忌だ!!!!」


 優男の話を遮って、真ん中の老人が声を上げる。

 悪びれる様子もなく、優男が続ける。


「そうでした。『魔王』の使う『次元斬』は防御不可能です。それに、『次元の傷』は、あまり増やされるわけにはいきません。」


「だからこそ、もっと有効な能力を持つ者が必要だったのではないかという事だよ。」


 右端の老人の言葉に対し、


「だからこそダンパーなのです。魔王の動きを遅くするだけで次元斬の発動回数を減らせるのです。腕力を減衰させれば、そもそも次元を切り裂く事はできなくなるでしょう。」


「しかし、それは魔王に攻撃を当てて初めて弱体化をかけられるんじゃないのかな?」


 右から2番目の老人が口を開く。


「その通りです。しかし、決定打である必要はありません。攻撃が掠りさえすれば、弱体化を仕掛けられます。」


「なるほど。そのためにも剣術を仕込むのか。」


「ご理解いただけましたでしょうか。」


 一旦、静寂が訪れた後、真ん中の老人が口を開く。


「いずれにせよ、召喚は成ってしまったのだ。あとはヴァイゼル、貴様が責任を持て。」


「仰せのままに。」


 ヴァイゼルと呼ばれた優男は、右手のひらを倒れている男に翳すと、何かを呟く。

 ヴァイゼルの体がうっすらと光り、右手から強い光が倒れた男に降り注ぐ。

 すると、ゆっくりと男が目を開き、意識を覚醒させるのだった。


「こ、ここは?」


 上半身を起こし、首をゆっくりと回して周囲を伺う。すぐにヴァイゼルと目が合う。


「ようこそ。ラウムツァイトへ。

 勇者『ムート』!」


「、、、ゆうしゃ、むーと?」


「そうです。あなたはこの世界の救世主として選ばれし者。

 この世界は魔王の脅威に晒されようとしています。それを止められるのは、世界に選ばれたあなただけです。

 あなたの力を貸して頂けませんか?」






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