第20話 欺瞞

「『ベストアンサー』ですか? それはスキルなのでしょうか? 聞いた事もありませんが。」


「そうだね! 僕が『ある』と主張しているだけなんだけどね。」


「しかし、ムートのステータスは確認しましたが、それらしいものは無かったはずです。」


「ムート君の自己申告だったから、彼が隠した可能性もあるけど、多分『ステータス』のスキルレベルが低くて表示されなかったんじゃないかな。他にもヤバそうなスキル持ってそうだしね。

 僕の『鑑定』では、レベルとオーラ量くらいしかわかんないし。」


「ではなぜヴァイゼル様は、存在が確認されていないスキルの存在を信じるのですか?」


「いいとこを突いてくるねえ。

 そうとしか考えられない事例が3つ見つかったから。としか言えないんだ。」


「3つの事例ですか。お聞きしてもよろしいでしょうか。」


「いいよ!

 まずは『開祖アンファング』、次は『勇者アルト』。そして『勇者ムート』が現れた。

 彼らに共通するのは、極端に選択を間違える事が少ないって点だね。

 ムートはまだデータが少ないから、観察が必要だけど、偶然ってさあ、重なるのは2つまでだと思うんだよねえ。3つ重なるならそれはもう必然だろう?

 つまり『何か』があると思うんだよなあ。」


と言いつつ、ムート達の戦いを観察している。


 ナッケンは、ヴァイゼルが大事な事を隠している事に気付いているが、あえて何も言わずにいた。

 今、自分が知る必要の無い事を、無理に聞き出す意味は無いと弁えているのだ。

 それをヴァイゼルもまた理解している。レーベンに言わせればまどろっこしい関係であるが、ナッケンには心地よく感じるのだった。


 ベストアンサーを持っているのはヴァイゼルだ。


 ここまでの会話で、ナッケンはそれを確信していた。


「やはりレーベンがやりすぎてしまいましたね。」


 レーベンはあっさりとベデルに追いつくと、剣を持つ右腕ごと切り飛ばしていた。

 ベデルは地面に倒れ込むと、のたうち回っている。剣を失った途端、怪しげな雰囲気が変え、小物臭が漂う。

 アンデッド化した者たちも、無事だった兵士たちに包囲され、動きを封じられている。


 バンダールは、倒れたベデルの元へ駆けつけようと、怒った幼児のように両腕を滅茶苦茶に振り回しながら走り出す。くっついたはずの右腕は、傷口の辺りから、あり得ない方向に曲がり、腕の長さも伸びているようだ。骨まではくっつかなかったらしい。

 それでも、ハンドアックスを手放さないので、筋肉と神経は繋がっているのだろう。悍ましいほどのオークの再生力だ。

 左手には、どこで拾ったのか剣を持っており、ハンドアックスと共にめちゃくちゃに振り回すので、自分の脚や腕に切り傷を増やしているが、気にする様子も無い。

 今はベデルの事しか頭にないようだ。


「あれを倒せば終わりでしょうか? ならば、あれはムートに任せないといけませんね。」


「終わらないよ。あいつら面倒な事を言い出しそうさ。でも、ムートにあれを任せるのは賛成。」


「では。」


 ナッケンは指笛を吹く構えをする。大きく息を吐くが、何も音は鳴らなかった。


 しかし数秒後、レーベンがナッケンに気付いた様子を見せると、トドメを刺そうとしていたベデルから速やかに距離をとった。


「それ便利だよね。君達家族同士にしか聞こえないんでしょう? しかも、凄く遠くまで届く。

 吹き方によって、簡単な会話もできるなんて、軍の奴らに知られたら大変な事になっちゃうだろうね。」


 ヴァイゼルがニヤニヤ笑いながら言うと、


「ご勘弁を。」


 本気でこうべを垂れるナッケンに、


「君たちを渡すわけないだろう!」


 少しだけ顔をしかめるヴァイゼルだった。

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