第21話 魔剣
「バンダール! 俺を助けろ!!
早く来い! このウスノロ!!」
地面に這いつくばるベデルが、半狂乱で叫んでいる。
「あ、あ、あでぃ、あでぃぎーーーーー!」
必死で駆けつけようとするバンダールだったが、元々の体重オーバーに加え、それなりにダメージも蓄積しており、ヨタヨタと思うように体が進んでいなかった。
しかし、出鱈目に振り回される両腕の武器に阻まれて、兵士たちも槍の届く間合いまで踏み込めずにいる。
「なんだよ。兄貴たちも見てんのかよ。」
ベデルにトドメを刺そうとしていたレーベンが、ふいに動きを止めて呟くと、ベデルから距離を取る。すると間一髪でレーベンの頭のあった場所をバンダールのハンドアックスが通過した。
バンダールの右腕は5m近くまで伸びており、まるで鎖鉄球のようにブンブン振り回して、ハンドアックスを飛ばしているのだった。
兵士たちは手を出す事が出来ないようで、遠巻きにバンダールを囲んでいるが、それ以上近付こうとはしなかった。
ムートは真っ直ぐにバンダールの後を追うと、悠然とハンドアックスの間合いに入って行く。
ガイン!
こちらを見ていた様子もないのに、見事なコントロールでムートの側頭部にハンドアックスの刃が叩きつけられるが、ムートはいとも簡単に短剣で防いだ。
短剣で受け止められるような軽い攻撃では無いはずだが、短剣を覆う分厚いオーラがあるため、たいした力を込めずとも弾き返す事が可能なのだった。
さらに、アックスの刃は大きく刃こぼれしたのだが、明らかに華奢に見える短剣は無傷で、オーラも削られた様子はない。
「じゃば、じゃばずるなぁ!!!」
攻撃を防がれた事に気付いたバンダールが急に振り返ると、今度は左手に持った剣を頭上から振り下ろしてくる。
パキィィィーン!
これも軽く掲げた短剣で防ぐと、バンダールの剣が簡単に折れてしまった。
バンダールは驚きながらも、長く伸びた右腕を水平方向に振り回し、ラリアットのような打撃を狙って来るが、
「そんなもん。通用するわけないだろう。」
ムートが短剣で防ぐだけで、勝手にバンダールの腕がちぎれ飛んだ。
バンダールは驚愕の表情を浮かべると、踵を返してベデルへと走り出す。
「魔剣だ! あの魔剣を使え!!」
ベデルは腕ごと切り飛ばされた剣の事をバンダールに叫ぶが、バンダールは構わずベデルへと突進すると、その巨体でベデルに覆い被さった。
「をおい! ウスノロ!!
何をやってやがる!!!」
「あ、あにぎは、おでが、まもる!!」
どうやら自分の体を盾にして、ベデルを攻撃させないつもりらしい。
「馬鹿野郎!
お前があいつらを全滅させない限り、俺たちは終わりなんだ!!
魔剣を拾って戦え!!!」
ベデルは暴れながら叫ぶが、バンダールは動かない。
「どけっ!
このカスが!!
邪魔なんだよ!!!」
ベデルはバンダールの下から這い出そうとするが、巨体の重さで身動きが出来ない。
ムートはゆっくりと2人に近付きながら思案する。バンダールは一度魔剣に刺されている。普通に殺したらアンデッド化するかもしれない。ならば、首を落としてアンデッド化を阻止する必要があるのだが、何段にも肉が巻いた太い首を一撃で落とす方法がない。
しかし、時間をかけてオーラを削っていては、バンダールの再生能力で思わぬイレギュラーが発生するかもしれない。
レーベンのバトルアックスと馬鹿力があれば、一気にかたをつけられそうだが、急に距離をとった所を見ると、どうやらこれをなんとかしろと言うのが、本当の試験内容なのだろう。
随分と意地悪な問題を出してくれたもんだ。召喚1日目だぞ。俺は。
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