第22話 絶望的状況

「あいつら、妙に慣れてやがんな。」


 ベデルから距離を取ったレーベンは、戦況を見渡していた。

 アンデッド化した盗賊への対処を誤り、命を落として自らもアンデッド化する兵士がいる一方で、スリーマンセルで行動し、安全にアンデッドを無力化しているグループが複数あるのに気付いたのだ。


 アンデッドの前方から2人がオーラの薄い腹部に槍を刺し込んで動きを止めてから、もう一人が背後に回り、アンデッドの脚を手斧などの刃の分厚い武器でぶった斬っていくのだ。


 アキレス腱を斬られてもアンデッドは歩いているので、骨ごと断ち切る必要があるのだ。スケルトンが筋肉が無いのに動くのと同じ原理なのだろう。

 オーラを見る事が出来る人間は限られているのに、迷う事なくオーラの薄い腹部を狙うのも、あらかじめそれを知っているとしか思えない。

 つまり、このアンデッド騒ぎ自体が仕組まれたもので、どう始末するかも決まっているのだろう。


「ムートは随分と見込まれちまったな。」


 そんな事をレーベンが呟いている頃、兵士の隊長らしき男が歩いている。その目線の先には、斬り飛ばされたベデルの右腕と、握っていた魔剣が落ちている。

 隊長は右腕を拾い上げると、手のひらが魔剣の柄に触れるように置き直した。すると、その手がしっかりと魔剣を握りしめる。

 その手首を隊長が掴むと、バンダールの下敷きになっているベデルの方へ放り投げた。

 かなり重量があるはずの魔剣を握った右腕は、軽々と投げ飛ばされて、ベデルのすぐ側に落ちる。すると、体側と腕先側の両方の切り口からピンク色の繊維の束が伸び、それらが接触を果たすとぐちゃぐちゃに絡み合っていく。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、、、、ああ、あ、あ、、、、、ふう。」


 ベデルは苦痛の悲鳴を上げていたが、ふいに落ち着くと、腕を斬られるまでの怪しげな雰囲気が戻っている。


「どけっ! そして、さっさと働け!

 化け物らしくな!!」


と叫ぶと、繊維の部分から先の腕だけが持ち上がり、ベデルに覆い被さるバンダールの脇腹に魔剣を突き込んだのだった。


「い、い、い、、いでぇよぅ、、、あにぎは、おでが、ま、まもるから、、、、」


「その為に敵を倒せと言ってるんだ!

 そのための力を与えてやっているんだからな!!」


と言うと、バンダールに刺し込んだ魔剣をグリグリと動かしている。


「いでえよ。やめてよぅ。なんでも言う事ぎぐがらぁ!!」


 泣き叫びながらバンダールが立ち上がると、周囲を見渡し、最も近くにいたムートに対峙する。


「さっさと殺っちまえ。お袋を犯るのは早かったんだからなあ!」


「あんとぎは、親父も笑っでぐれたんダァ。」


 バンダールはニヤニヤと笑い出す。


「オメェを殺じで、誉めでもらうんダァ!!」


 最初に見た時は斑らで薄かったバンダールのオーラが、魔剣で刺されるたびに、どす黒く分厚く強化されていた。アンデッド達のように、頭部にオーラが集中しているわけでもなく、満遍なく全身が守られている。

 分厚く全身を覆う禍々しいオーラを突破する攻撃手段を俺は持っていない。短剣にエンチャントされたピアース2を使ってオーラを突破して刺突したとしても、バンダールはすぐに回復してしまうだろう。


 どう考えても絶望的な状況にありながら、なぜか焦る気持ちにならない。

 そういえば、この世界に召喚される前から、こうだったような気がする。しかし、結局、死ぬことになったのだから、単なる恒常性バイアスなのか?

 それにしては、勝ち筋が頭に浮かんでくるのはなぜだ? 


 こんな状況、経験したことなど無いはずなのに。


 

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