第19話 傍観者達

「レーベンの奴、、、

 申し訳ありません。ヴァイゼル様。くれぐれも手を出さないように申し付けていたのですが、、、」


 岩山の上から、森を超えたはるか先の草地を見下ろしている、ナッケンとヴァイゼルの姿があった。


 ナッケンは裸眼で、ヴァイゼルはモノクル型の魔道具で、ムート達の戦いを見ていた。

 レーベンが大技を放つのをみて、ナッケンが慌てて頭を下げたのだ。


「またまたぁ。ちょっと白々しいんじゃ無いかな?」


 ヴァイゼルはニヤニヤと笑う。


「お見通しの通りです。」


 ナッケンは言い訳もせず、ただ恐縮する。


「ナッケンは正しいよ。レーベンにそんな腹芸ができるわけないからね。」


 それを分かっていた上で、事前に事情を話しておくよう指示をし、それを無視したナッケンを誉めているのだ。なかなかに性格が悪い。


「しかし、ムートは本物のようですね。ここからでもわかるくらい、突然、オーラ量が跳ね上がりました。

 さきほどとは別人です。あれほどのオーラを隠していたのでしょうか?」


「今、レベルアップしたみたいだよ。」


「レベルアップだけでですか!? ありえない、、、」


「レベル249に上がってるよ。獲得経験値を上昇させるスキルでも持ってるんだろうね。」


「に、249!? 

 すでに魔王を圧倒できるのではありませんか!?」


「まあ、そうなんだけどね。魔王は倒した後が厄介だから、もうちょっと準備が必要なんだよ。」


「倒した後、、、」


「それにね、単純に強さだけの話ならムート君である必要はないんだ。」


「それも、魔王を倒した後に関わるのでしょうか。」


「そうだね。彼はその時、必要になるスキルを持っているようだよ。」


「『接触発動』ですか? 確かに珍しいスキルですが、所有者は他にもおりますが。」


「ああ。それも必要になるとは思うんだけどさあ、それよりももっと珍しいスキルを持ってるね。あれは。」


「もっと珍しい?」


「そう。ちょっとした神様レベルの奴。」


「!!!」


「まあ、なんにせよ、じいさん達はムート君に感謝すべきだよね。」


「感謝ですか? 期待とかではなく?」


「そうだよ。だって、もし彼が『違って』たら誰かが時間を稼がなきゃならない。異世界召喚なんて、簡単には出来ないからね。次は50年後になるか、100年後になるかわからないけどさあ。

 その間、魔王をほっとくわけにはいかないよね? その時間稼ぎの為に集められたのが賢者会議のメンバーなのさ。」


「ではその場合、次の召喚が可能になるまで、賢者会議が時間を稼ぐのですか?」


「そんな力は無いよ。彼らにはね。」


「えっ! でも、それぞれ5大属性の頂点に立つ存在だと聞いています。だからこそ、高い地位を与えられているのでしょう?」


「魔王を力で抑える事は不可能なんだよ。必ず、討伐者よりも強くなってしまうんだ。そういう『呪い』だと思ってくれ。

 だから、完全に討滅できる者が現れるまで、今よりも強くならないように抑え続ける事しか出来ないんだけどね、あの爺さん達じゃあさぁ。」


「しかし、ヴァイゼル様なら可能なのですよね?」


「まあね。やりたくはないかなぁ。死んじゃうし。」


「私達もお供いたします。」


「それはダメ。次の人を導いてくれなきゃ。あと500年やそこら、君達兄弟なら待てるでしょ?」


「それはまあ。しかし、ヴァイゼル様無くして、」


「だからあ、僕も偽賢者なんだよ。それに、そうはならない。だって、ムートは本物だからね!」


「間違いないのですか?」


「完璧な証拠は無いよ。でも、『ベストアンサー』持ちとしか考えられないじゃん?

 召喚されてからここまで、彼の行動は冷静そのもの。答えなんて分かりっこない選択もノーミスだもんね!」

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