第18話 水面切り
ガシュッ!
いとも簡単にレーベンのバトルアックスがアンデッドの右肘から先を切り飛ばした。
「なんだ? 軽く当てただけだぞ? スカスカじゃねえか。」
焦って冷静さを失いかけていたレーベンだが、すぐに平常心を取り戻したようだ。
すぐさま2撃目を右脚に叩き込み、膝から下を吹っ飛ばすと、アンデッドはバランスを失って転倒した。
「援護を頼む!」
すぐさま意識を短剣に集中する。こいつを装備した時に感じていた。こいつはただの短剣では無い事に。
俺のオーラを短剣に向かわせるイメージを強めると、短剣が鈍く光り始める。
『ピアース2』
短剣にエンチャントされていたスキルだ。こいつに俺のオーラを、今の技術で注げるだけ注いだ。
立ち上がろうともがいているアンデッドの背後から近付き、首に短剣を突き入れる。
サクッ
いとも簡単に分厚いオーラを貫通して刃が首の骨に届き、なんの抵抗も感じないまま切断した。
アンデッドはそのまま動かなくなった。手足を落とした時と同様に、首からも大きな出血は無い。アンデッド化した時、すでに心臓が止まっているのだろう。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。レベルが上がりました。・・・・・・・』
傷ついたレコードのように、同じセリフが頭の中でループし始めた。無機質な声のリフレインは止まらないが、自分のオーラ量が一気に増えたのを感じた。すでに、レベルアップは完了しているらしい。
人間を殺してもレベルは上がらないはずだが、アンデッド化した元人間なら経験値が貰えるんだな。
声を止めるよう意識すると、ぶつっと静かになった。今は敵を倒す事に集中したい。
「ムート。あいつを止めねえとやべえぞ。数が増えすぎてる。」
レーベンは襲い来るアンデッドの手足をカウンターで切り飛ばしながら、徐々に後退している。アンデッド達の動きは緩慢だが、時折、一瞬で距離を詰める動きをするので、一瞬たりとも油断は出来ない。
『あいつ』と言うのはベデルの事だろう。今は兵士たちが追っているが、人間離れした走力で逃げ回っている。
「ジャンプだ!!」
突然レーベンが叫ぶので、慌ててジャンプする。視界に捉えたレーベンはバトルアックスにオーラを集中させている。
「水平斬り!」
レーベンはその場で一回転しながら回転斬りを空振った。すると、同心円状のかまいたちが、超高速でその径を広げていく。
ジャリィーーン
ちょうど着地した俺の足首をかまいたちが襲う。強化されたばかりのオーラによって守られた。
「おい! なにしやがる!!」
頭に来て怒鳴りつけるが、
「タイミングはそっちで合わせろってこった。」
全然、悪びれる様子は無い。もし、『パーティ』を組んでいたら、あれを直接食らっていたと言う事か。こいつは先が思いやられるな。
ガシャーン
ドサッ
ぎゃあああああ
足首を切られた事で、アンデッド達はバランスを崩して転んでいる。
アンデッド化していなかった盗賊は、のたうち回っている。
「でかぶつは任せるぞ!」
と言うと、レーベンはベデルへ向けて走り出した。
俺は倒れているアンデッド達にトドメを刺して回る。
『レベルが上がりました。レベルが上がりました。、、、、、、』
また、始まってしまったので、さっきと同じ要領でアナウンスを止める。
続けて、アンデッド化していない盗賊にトドメを刺そうと目を向けると、
「おべえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
バンダールが雄叫びを上げ、ハンドアックスを振りかぶった。いつの間にか拾った右腕がくっつけられ、ベデルに刺された腹の傷は、出血がもう止まっている。
オークの血が入っていると言うのは本当らしい。異常な回復力だ。
さらに、さっきまで斑らだった全身を覆うオーラが、均一に全身を覆い厚みも桁違いに増大していた。
レーベンの水面斬りも、このオーラが防いだのだろう。
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