第24話 祈り

「ちょこまか、にげでもむだだどぅ!!」


 振り回してくる右腕を、安全な距離マージンを取って確実に躱していると、バンダールは簡単に焦れてくる。


 この距離を保って腕の先端に当たるように、壊れても構わない武器を合わせ続けるのが、最も安全にオーラを削る方法だ。しかし、あの魔剣の効果の全容が知れない状況で、そんなのんきな事をしていられるのだろうか。

 なにやら悪い予感がするので、恐らくこれは悪手だ。


 それならば!


 バンダールのハンドアックスが通り過ぎた直後に、俺は真っ直ぐに突っ込む。

 それを見たバンダールはニタッと笑った。恐らく、鎖鉄球を使った時も同じ行動をする敵がいたのだろう。武器の部分さえ喰らわなければ、鎖を喰らっても致命傷にはならないからだ。それすらも避けてしまえば、もうバンダールに身を守る術はない。

 誰もが思い付く事だ。


 バンダールは左手に持っていた剣を手放すと、右腕の骨のない部分を掴み、回転径を短く調整すると、再びハンドアックスが俺の側頭部目掛けて的確に飛んでくる。鎖でも行っていた動きなのだろう。極めてスムーズなリーチの調整だった。

 ある程度は予想できていた俺は、直前で急停止し、斧をやり過ごすと、無理をせず、一旦、前進を止めた。

 回転径が短くなったバンダールの右腕は、さらに早いテンポで次の攻撃を繰り出してくる。これをバックステップでかわそうとするが、それを読んでいたらしいバンダールの斧が、胸の高さで直撃するコースを飛んできた。

 ステップではかわせない!

 咄嗟に尻餅をつくように腰を落としつつ、斧が来るタイミングに合わせて、短剣を振り上げた。

 水平方向に走る斧の横っ腹を払い上げるように当たり、軌道を上方へとずらす事ができた。

 しかし、息をつく間もなく、次は高さを得て、早くて重い攻撃が飛んでくる。崩れた体勢で受けられるはずもない。

 いちかばちか、前方に転がって回避する。


 しかし、斧は来なかった。


 一瞬、ニタリと笑うバンダールが見えた気がした。


 バンダールは弾かれた反動を利用して、それまでの横回転を縦回転に変えていた。さらに、右腕を掴んでいた左手を離してリーチを伸ばす事で、回転のタイミングを遅らせたのだ。丁度、俺の避け終わりを狙えるように。

 

 極太のムチのように、ピンク色の繊維の束が、俺の頭上から降ってくる。ハンドアックスは遥か後方だが、腕に当たっても、あの重量で打ち下ろされたらひとたまりもない。

 

 だから祈ったんだ。











 俺の考えが正しい事を!!

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