第6話 レベルアップ

「じゃあ、そろそろ実戦やってみようか。例のものよろしく。」


 ヴァイゼルがそう言うと、ナッケンが部屋の隅の方に歩いて行く。戻って来ると何やらモゾモゾ動く頭陀袋を持って来た。

 袋の口を開いて、俺の方に放り投げる。3mくらい手前に落ち、中から青くて丸っこいものが出て来た。


「スライムってやつかよ。こんなのが本当にいる世界に来ちまったんだな。」


 なんか、もういろいろと認めざるを得ないようだ。


「ほいっ。こいつでそれを倒して見てくれ。」


 いつの間にかレーベンが壁の木剣を持って来ていた。それを受け取ってスライムに対峙する。


「うわっ! 意外と素早いな。」


 どう言う原理かわからないが、スライムは左右にジャブステップでフェイクを入れながら、こちらに向かって来る。


「うわっ!」


 スライムが突然飛び上がって、こちらに体当たりして来た。

 意外に大きな衝撃があり、俺は尻餅をついてしまう。スライムの方も跳ね返ったようで、少し距離があいた位置でひっくり返っている。


「このーーーっ!!」


 俺は膝立ちで、持っていた木剣の腹をスライムに叩きつけた。


バシン

プシュー


 スライムは膜が破裂するように潰れると、床の青いシミになった。


『ブルースライムを倒しました。

 経験値1。初討伐ボーナス100倍。

 レベルが5に上がりました。』


 頭の中に、また無機質な声が響いた。


「ちゃんと叩けたね。切ってたら分裂したはずだよ。知ってたのかい?」


 ヴァイゼルが尋ねる。


「なんとなくだ。切りにくそうだったから。それより、レベルが上がったんだが、どうすればいいんだ?」


「おっ! 上手くいったみてえだな。」


 レーベンが言う。


「ステータスを開いて、スキルを意識してみるんだ。」


 ナッケンの言う通りにやってみる。


『スキル 

 獲得済みのスキル:接触発動1(ダンパースキル限定) ステータス1

 獲得可能なスキル:ヴァッサー1、ファイヤ1、シュラーフ1、ザウバー1、ハイレン1、シュペート1』


 と出た。なんか意味がわからん。多分だがドイツ語だろ。これ。言語は統一されてるってヴァイゼルが言ってたはずなんだが。


「魔法名は、マギッシュって言う専用言語でね、話し言葉とは違うんだ。だから、単語の意味を一つずつ覚えて行くしかない。

 でも、『スキル』とか『クラス』とかは共通言語だからそのまま意味がわかるんだよ。

 ムートが今、覚えられるスキル名を言ってくれるかい?」


 俺はスキル欄をそのまま読み上げる。


「すごいな! 接触発動をレベル1ですでに持ってたのか。そいつを持ってると、対象に触れるだけでスキルが発動するぞ。」


 レーベンが教えてくれる。


「『1』って言うのはスキルのランクだね。同じスキルでも、数字が大きくなるほど強力になり、オーラの消費量も増えるが、効率は良くなる。

 しかし、ランクは1から順番に上げるしかないよ。いきなりランク3とかを取得出来る事はない。

 それと、適性が低いスキルはランクの上限も低いから気をつけて。」


 ナッケンが説明する。


「ダンパー向きのスキルはシュラーフとシュペートだね。でも、シュラーフはちょっと微妙かな。」


 ヴァイゼルが言う。


「使えないスキルなのか?」


「いや。かなり強力なスキルだよ。でもね、本当に強い相手には効果が無いんだ。あと、アンデッド系には効かないな。

 相手を眠らせるスキルだから、眠らない奴には効かないんだ。」


 なるほどな。俺の相手は魔王だから、持ってても無駄になりそうって事か。


「だったらシュペートはどうなんだ?」


 今度はレーベンが答える。


「低レベルのシュペートだと、食らっても気付かないくらいの効果しかないぞ。」


「まあ、減衰率がランク1だと1%だからね。相手の素早さが1%下がっても、あんまり気付かないよね。」


 ヴァイゼルも同意する。


「じゃあ、必要なスキルはこん中にはないって事でいいのか?」


「いや。それでもシュペートは取得すべきだ。シュペートはどんな相手にでも効果がある。もちろん魔王にもね。

 ランクが上がれば強力な武器になるはずだ。」


 ヴァイゼルが言うのならそうなんだろう。


「じゃあ取得するぞ!」


『シュペート1のスキルを取得しました。』


 例の無機質な声が響いた。


「接触発動があるんだから、シュラーフも持ってても損はないんじゃないか?」


と言うレーベンに対し、


「スキルを獲得すると、隠しパラメーターの『スキルポイント』を消費すると言われている。

 スキルポイントはレベルアップで獲得できるが、一人が獲得できる上限には限りがあるから、無駄なスキルの獲得はなるべく避けたいんだ。」


「そういう事か!」


と納得するレーベンの横で、俺も納得していた。

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