第7話 訳あり

「さて、今度こそ飯にしようぜ!」


 レーベンが言うのに、やれやれと言った表情のナッケンとヴァイゼルだったが、使った道具を片付けて、第一訓練室を後にする。

 貴重な施設みたいだし、あんまり長く独占するのも良くないのかも知れない。


 ヴァイゼルが訓練室から出た途端、


「もう、よろしいのですかあ?」


 すぐにアンナさんがすっ飛んできた。ずっと、こちらを伺っていたかのような速さだ。

 実際、そうなんだろうな。


「ええ。突然だったのに、ありがとうございました。」


 ヴァイゼルのイケメンスマイルがまたもや炸裂。

 へたり込むアンナさんを放置して、訓練場を後にする。


「せっかくだから街に出ないか? ムートを案内したいし。」


と言うレーベンに対し、


「僕は爺さんたちに報告に行くよ。ほっとくとすぐ拗ねるからね。鬱陶しいけど一応、上司だし。」


「苦労が絶えないな。ヴァイゼルは。あんまり無理すんなよ。」


 ナッケンが心配そうに言う。


「ありがとう! でも、これも俺の戦いだから。

 じゃあ、また後で!!」


 イケメンスマイルでヴァイゼルが去って行った。


「じゃあ早速、行こうか。安くて旨い店があるんだよ。」


 レーベンはニコニコだ。


「でも、街に行くんだろう? 俺が城から出ても問題ないのか? あんなところに閉じ込められてるはずなんだが。」


「ああ。あれは、ヴァイゼルがムートを閉じ込めてるって事になってるんだよ。」


「どういう事だ?」


「ムートを必要としてるのはヴァイゼルさ。爺さんたちは、君がいなくなっても構わないと思ってる。勇者として評価してないんだね。

 だからヴァイゼルは、君が寝返ったら大変な事になるって主張せざるを得なかったんだ。どうしても君をこの国で保護したかったから。

 だから、軟禁してるって体裁を取ったのさ。そして、俺たちは君の監視役と言う事になっているんだよ。」


 なんだか、俺もヴァイゼルも、ややこしい立場らしい事だけは分かった。


「まあ、そういうわけだから、どこに行くにも俺たち兄弟がついて行くことになるけど、逆に俺たちがいればどこにでも行けるから、遠慮なく言ってくれ。」


と、分厚い胸を叩くレーベンだった。


 凸凹兄弟がズイズイ歩いて行くので、俺はその後からついて行く。

 王城の正門は解放されており、衛兵の姿はあるが、基本的に誰でも素通りできるようだ。


「不用心だな。」


 俺の呟きに対し、


「ここの王様はお飾りだからな。なんなら暗殺でもされてくれたらラッキーって感じだから。」


 随分な事をあっけらかんと言うレーベン。


「おい! いくらなんでも口を慎め。

 でも、この国の方針を定める賢者会議が、王族の護衛を最小限にすると決めたんだ。

 そこにどんな意図があるか、俺たちは預かり知らない事だ。」


 ナッケンは大人な見解を述べる。


「ヴァイゼルも賢者会議の一員なんだろう?」


 俺が問うと、


「あいつはなんか無理矢理入れられたらしいよ。それも、王様の推薦らしい。だから、爺さんたちに煙たがられても、王様の意見を汲まなくちゃいけないんだってさ。」


 なんとも、気の毒な話だった。


「君たち兄弟は、なんで王城に勤めてるんだい?

 強いらしいのはわかるんだけど、騎士って感じじゃないよな。」


 俺が尋ねると、


「俺たちはヴァイゼルに拾われたんだ。ちょっと訳ありで、俺たちの両親は里に住む事が出来なかったんだ。

 で、人里離れて暮らしてたところに、あいつが訪ねて来てさ。腕の立つ奴を探してるって言うんで、ついて来ちまったのさ。俺たちを雇いたいなんて人間は他にいなかったからな。」


 ちょっと、俯きがちにレーベンが言う。


「『訳あり』って、、、いや、、、それは聞かないでおくよ。」


 俺が言うと、


「まあ、すぐにわかるさ。」


 ナッケンが答える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る