第5話 ステータス

 第一訓練室に入って扉を閉めると、心なしか壁一面が光ったような気がした。


「ここは、さっき僕が使ったような結界が張られていて、外から中の様子が伺えないようになっているんだ。この仕掛けは第一訓練室だけにあるよ。」


 ヴァイゼルがそう説明すると、顔を俺のすぐそばまで近づけて、


「でも、油断はしないでね。」


 耳のすぐ横で囁く。


 第一訓練室は正方形の体育館と言った風情だ。元の世界にあった武道場よりも明らかに天井が高い。

 壁際には模擬戦ようだろうか。木製の武具が並んでいる。

 一角には金属製の物もあるようだ。

 それを見ているのに気付いたナッケンが。


「あれも模擬戦用だ。刃が引いてある。オーラがあるから真剣でやり合っても殺しちまう事なんて滅多にないんだが、無いわけじゃない。

 それとなあ。敢えて、オーラが尽きた状態じゃないと身が入らないって言う変態がいてだなあ。」


と言いながら、弟の方を見ている。


「生死を分ける戦いってのは、安全が確保されてるお遊びとは違うんだよ。」


 レーベンにも、しっかりと聞こえていたようだ。


「じゃあステータスを開いてみてくれるかい?」


 ヴァイゼルが言う。ステータスってのがなんだかわからないが、頭の中に『ステータス』と言う言葉を思い浮かべると、視界に文字が浮き上がる。


「どうやら視えているみたいだね。そこには君のオーラの強さと、取得している能力などが表示されているはずだ。」


「これか? レベルは1で、クラスはダンパーとか、」


「読み上げないでいいよ。それは、本当に大事な情報だから。敵に知られると、とんでもなく不利になると思っておいた方がいい。」


 なるほどな。結界のある第一訓練室を借りたのもそのためか。


「しかし、レベル1って事は弱いんだろ? どうして、弱い奴をわざわざ連れて来る必要があるんだ?」


「まず、ステータスで表されるのは、オーラについてだけだよ。君の肉体の強さは表示されない。だから、体を鍛えて強くなったり、年老いて弱くなっても、ステータス値には反映されないんだ。」


 つまり、レベル1なのは俺のオーラって事でいいらしい。


「そして、戦闘でのダメージは、まず、そのオーラが肩代わりしてくれる。オーラが残っていれば、肉体が損傷する事は無いと言う事だね。」


「そいつは凄い。じゃあ、オーラのレベルを上げてやれば、ちょっとやそっとで怪我もしなくなるって事か。」


「そう言う事だよ。」


「でも、魔王もオーラはあるんだろう?」


「その通りさ!

 だから、様々なスキルを使って、敵のオーラを打ち破る必要があるんだ。でも、スキルを使う為には自分のオーラを消費しなければいけない。

 大きな力を使うほど、消費されるオーラも多くなる。

 魔法もスキルの一種だから、オーラをあらかじめ魔力に変換してから発動するんだ。」


「オーラが尽きたらどうなるんだ?」


「一切のスキルが発動できなくなり、攻撃が直接肉体を傷つける。それと、一気にオーラを失った時は、意識を失う事がある。あの騎士みたいにね。

 この世界にはヒーラーも居るが、回復できるのはオーラだけだ。肉体の傷を癒す事は出来ない。

 薬草もあるが、化膿を止めるとか、腫れを引かせるくらいの効果しかない。

 外科手術の出来る医者もいなくは無いが、逆に深刻な感染症になってしまうリスクの方が大きいね。

 だから、オーラが尽きる前に撤退する事を検討すべきだ。それが出来ない者は死ぬからね。」


「この世界でのバトルは、オーラでオーラを削り合うって事なんだな。」


「察しが良くて助かるよ。」


「なら、なおさら、なんでレベル1の俺を呼んだんだ?」


 話しが振り出しに戻る。


「それはね、この世界の人間は、生まれた時にはすでにレベルがある程度、上がっているからなんだ。」


「それは、良いことなんじゃないのか?」


「普通に生きて行くだけならそうだね。この世界では、誰でも幸せに生まれて来るわけじゃない。不衛生な環境に生まれれば、すぐに病気で死んでしまう。

 でも、オーラがあれば生き残れる確率は跳ね上がる。暴力にも単発なら耐えられるしね。」


 元の世界でも、中世の時代ならそう言うものなのかもしれない。オーラなんかないから、もっと簡単に子供が死んでいたんだろう。


「どう言うスキルを授かるかは、遺伝もあるみたいだけど、物心つく前の環境も大きく影響するらしい。

 生きて行く為には、生活スキルが欠かせないから、水を出すとか、体を消毒するとか、そういった、戦闘向きではないスキルを取得しているのが普通なんだ。」


「それは、それで便利そうだが、」


「そう。普通に生きるならね。でも、魔王に挑むレベルの戦力を得ようとすると、無駄なスキルを取得する余裕は無いんだ。

 特に『クラス』専用スキルを発現出来なければ、戦力にはならないんだよ。」


 クラスってのは、俺は『ダンパー』ってやつだな。


「君は『ダンパー』。相手の能力を下げるスキルを発動できるようになる。動きを遅くしたり、力を弱くしたりとかだね。」


「なんか、弱そうだな。」


 率直な感想だ。よくは知らないが、ル◯ナンとか、ボミ◯スとかが得意らしい。絶対、人気ないだろう。このクラス。


「まあ、君一人では苦労するだろうね。だから護衛がつく。ナッケン、レーベンがそう。僕もその一人だよ。それにね、こと魔王に関しては君の能力が切り札なんだ。」


「魔王には刺さる!?」


「そう。君じゃなきゃダメなんだよ。

 だから、これからよろしくね!

 勇者ムート君!!」


 爽やかな優男スマイルを、男の俺に向けるんじゃない!



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