第4話 オーラの存在

 レベルアップってなんだよ。やっぱり◯ラクエじゃないか。


「その辺は仲間と一緒に説明するよ。

 それに、あんまりここに籠ってるのもよくない。じれた爺さんたちが喚き出したら面倒だ。」


 と言う事で、この部屋から出るらしい。部屋中に満ちていた光が失われて、暗闇に包まれる。尖塔上部から差し込む細い光しか見えなくなる。

 やがて目が慣れて来ると、スタスタと螺旋階段を降りて行くヴァイゼルの姿が見えて来た。

 糸目だから、瞳孔が普段から開き気味なのかな?とか、どうでもいい事が頭をよぎる。しかし、モタモタしてたら置いていかれそうだ。

 慌てて後を追って螺旋階段を降りようとするが、ヴァイゼルはとっくに下まで降りて、扉の前でこちらを見上げていた。


「おいおい、飛び降りたのかよ!」


 びっくりして声をかけるが。


「ある程度『オーラ』があれば当たり前だよ。でも、まだ君はレベル1だから、真似しちゃダメだよ!」


 なんかまたドラク◯っぽいワードが出て来たが、俺は飛び降りない方がいいらしい。

 小走りに階段をおりて行った。


 ヴァイゼルは扉をコンコンとノックすると、ゴリゴリと関貫を外す音がして、扉が開けられる。

 外には扉を開けた先程の衛兵の他に、背の高い痩せ型の男と、ずんぐりむっくりで髭面の男が立っていた。


「おうっ! そいつが勇者様かい!?」


 ずんぐりむっくりが、意外に高い声で言う。


「そうだよ! 勇者ムートだ。ちょうど君たちに紹介しながら、この世界のレベルアップシステムの説明をしようと思っていたところだよ。」


 ヴァイゼルが答える。


「私はナッケン。そしてこちらは弟のレーベンだ。私は弓、弟は斧を使う。よろしく。」


 背の高い方が落ち着いた声で自己紹介し、右手を差し出す。俺も握手に応じる。

 弟の方はそれを肯定するように、サムズアップのジェスチャーで、白い歯を剥き出して笑顔を送っていた。


「あ、ええと、俺は、、、」


「まだ、記憶が曖昧だろう? 今は『ムート』と呼ばれる事に慣れてくれ。」


 俺の自己紹介はヴァイゼルによって割愛され、ナッケンとレーベンもそれを理解していたようだ。


「じゃあ、レベルアップシステムの説明をするんなら訓練場だな。それとも、先に飯にするかい?」


 レーベンが言うと。


「飯にしたいのはレーベンだろう? ムートは1レベルも無駄に出来ないんだから、まずは訓練場だ!」


 ヴァイゼルが有無を言わさず行き先を告げる。


 ナッケンは2人の会話を聞きもせずに、スタスタととっくに歩き出していた。それにヴァイゼルとレーベンもついて行くので、俺も後を追う。

 ヴァイゼルに後ろから話しかける。


「なあ。さっきの騎士は大丈夫なのか?」


 俺に触れた途端にぶっ倒れたので、気になっていた。


「ああ。気にする事はないよ。一気にオーラを失ってぶっ倒れただけだから。」


「オーラ?」


「そうさ。ちょうど、それをこれから説明するつもりだったんだよ。

 騎士の彼については、あの状態からさらに攻撃を受けなければ、いずれ回復するよ。戦場でああなったら、命の危機なんだけどね。」


 などと話しているうちに中庭を通り過ぎ、その先に建物が見えて来る。どうやら、そこへと向かっているらしい。


「あれが訓練場さ。騎士団や、近衛兵とかには、それぞれの訓練所があるんだが、今見えているのは自主練の為の施設だ。所属に関係なく、模擬戦を行ったりも出来る、より実戦を意識した訓練ができる場所だ。」


 なぜか、少し得意げにレーベンが説明した。


 扉を開けるとすぐに受付が見える。


「ヴァイゼル様! どうなさったんですか?」


 受付嬢がカウンターから飛び出して来た。心なしか目がハートになっているようだ。


「俺たちもいるんだがね。常連なんだけどね。」


 レーベンが不満げにブツブツ言っている。


「やあ、アンナさん。突然ごめんなさい。新人にレッスンをつけたいので、第一訓練室をお借りしたいのですが、空いてますか?」


 にっこりとイケメンスマイルでアンナに話しかける。アンナの顔は真っ赤に上気している。


「もちろんです。でも、ちょっとだけ待っていただけますか?」


「ええ、大丈夫ですよ。」


 ヴァイゼルが答えると同時に、アンナは駆け出していった。


「ほんと、わかりやすいよなぁ。俺たちだけの時と、態度が違いすぎだよ。あれがなければ悪くないと思うんだけどなあ。」


 レーベンがこぼす。


 すると、アンナが走って行った方から、三人の男がこちらに歩いて来るのが見える。


「全く、なんだってんだよ。空いてるって言うから借りてただけなのに、今すぐ出て行けって、、、」


「まあまあ、今日はあんまり調子も出てなかったし、早めに切り上げるとしようや。」


「でもなあ、あの態度はないよなあ。」


 三人はブツクサ言い合いながら、訓練場を出て行った。


 すぐに、はあはあと息を切らして、アンナが駆け戻って来る。


「お待たせしました。ヴァイゼルさん。どうぞ、お使い下さい。」


「ありがとうアンナさん。」


 アンナにイケメンスマイルをもう一撃加えて、歩き出すヴァイゼル。

 アンナは胸を押さえながらその場に崩れ落ちるのだった。


「なあ。さっきのって、」


 俺はレーベンに聞こうとすると。


「そう言う事だ。」


 そばにいたナッケンが、何も言うなとばかりに、俺の発言を遮ったのだった。

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