第9話 2度目の暴発

「おい、ババア! 今日こそ払ってもらうぞ!!」


 本格的にがっつこうとした途端にガラの悪い3人組が店に押し入って来た。


 うわあ。テンプレ展開ってやつだぁ。と、がっくり項垂れると、チンピラの一人がそれに気付く。


「おう、兄ちゃん。邪魔さえしなければカタギに手出ししねえよ。

 大人しく、メシくってろ。」


と、ドスを効かせてきたが、あれっ? 無差別に絡んで来るんじゃないの?

 レーベンとナッケンは、チンピラたちには目線を向けず、お互いに目配せしあっている。


「母ちゃんに手を出すな!」


 さっきエールを運んできた男の子が、チンピラたちの前に立ちはだかかった。


「おやめ! あんたは裏に行ってな!!」


 おかみさんが悲鳴のような声を上げた。


「ぼうず。知らないのかい?」


 チンピラのリーダー格の男が少年に話しかける。悪党の定番のニヤニヤ笑いではなく、妙に真剣な表情だ。


「やめとくれ! ライクス。後生だから。」


 おかみさんは今にも泣き出しそうだ。


「悪いが仕事なんだ。ぼうず。お前が原因なんだよ。」


「え、どういう事?」


「後生だから!!!」


 おかみさんは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。」


「お前がな、」


「ちょっと待てぃ。」


 たまらず口を出してしまった。でも、いくらなんでもおかみさんの様子が心配だったんだ。


「兄ちゃん。警告したはずだぞ。」


 俺は立ち上がって、リーダーに向かって歩き出す。


「おいっ。『不浄の兄弟』! お前らはいいのか?」


 リーダーは俺を無視するように、ナッケン達に声を上げる。


「俺たちは、その『兄ちゃん』の護衛だ。そいつに手を出せば、そこからは仕事させてもらう。この店の事はノータッチのつもりだったんだがなあ、、、」


 なんか、ナッケンの様子がおかしい。


「その呼び方はやめろと警告したはずだよなあ。ライクス。俺たちの事はいい。だがなあ、その呼び名はうちの両親を侮辱するモンだ。」


 レーベンも爆発寸前だ。と言うか、2人ともチンピラと顔見知りだったのか。


「てめえらとはいずれケリをつけなきゃならねえんだ。せっかくだから今やっちまうかあ!?」


 ライクスの言葉に手下達もいきりたつ。


「おいおい。先にツバ吐いたのは俺だぞ。お前らが熱くなってどうするんだよ。」


 俺はナッケン達をなだめるつもりで振り返るが、


「てめえはすっこんでろ!」


 ライクスが俺の後頭部を突き飛ばそうと触れた瞬間、


パリーーーーーーーーン


 ガラスが割れるような音がして、ライクスが尻餅をついた。驚いた様子で呆然としている。


「アニキ! どうしたんですか!?」

「てめえ! アニキに何をしやがった!?」


 子分たちが慌てている。


「おいおい。ライクスをやっちまったのか? 今の音って、、、」

「ムートがやったのか!?」


 ナッケン達も驚いている。しかし、一番驚いているのも、何が起こったのか説明して欲しいのも俺の方だ。

 しかし、この状況を活かすしかない。


「そいつを連れて帰るんだな。今なら見逃してやる。」


 ビビっているのを押し殺して凄んでみせる。


「く、くそっ。」

「アニキ! 今日のところは引きましょう。」


 子分達は、呆然と座り込んでいるライクスを両脇から抱え上げるように立ち上がらせて、すごすごと店から出て行った。


「ムート。すげぇな。ライクスはこの辺じゃあ、かなり名前の知れた冒険者だったんだぞ。それを、一撃でオーラブレイクしちまうとはな。さすが異世界の勇者様だぜ。」


 レーベンは本当に感心しているようだ。


「おいっ! 余計な事は言うな。」


 ナッケンが慌てている。


「いけねっ! おかみさん。今の無し。」


 もう手遅れな気もする。


「勇者様! ありがとう!!」

 男の子の目がキラキラ輝いている。


「勇者様だったんですかい! ありがとうございました。おかげで助かりました。」


 全然、無しになってないな。


「でも、あいつらまた来るんでしょう? 俺たちがずっと張り付いてるわけにもいかないし。

 そもそも、あいつらは何が目的なんですか?」


 俺の質問に、どう答えるべきか、おかみさんが悩んでいると、


「俺のせいなんだ。俺があいつらに目をつけられちまったから、、、」

 男の子は暗い顔をしている。


「ルー! それは違うんだよ。あんたは何も悪くない!」


 おかみさんが悲痛な声を上げる。


「一旦、落ち着こうか。」


 場を収めるように努める俺だった。

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