第16話 アンデッド化

パキン! ザシュッ!

ギャアアアアァ!


パキン! ガシュッ!

グガアアアアァ!


 相手が剣を振るって来るのに合わせて、短剣を打ち合わせる。すると簡単に盗賊達の剣が折れるので、そのまま体を切り付ける。

 簡単なお仕事だ。

 少しは頭を使って違うパターンで来ればいいのに。


ドシュッ!

「うしろからぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 味方に後ろから射られた盗賊が倒れる。集団としての練度もゼロだな。流石に簡単すぎるだろ。


パキン! パキン! パキン!

ズシャッ! ドガッ! ゴシュッ!


 次々と迫り来る盗賊達を、全く同じ手順で無力化していく。


「ぎぃざぁぁまぁーーーーーー!」

ザシュッ!

「ギャアアアアアッ!」


 バンダールが振り回したハンドアックスが、先に俺へと迫っていた盗賊の肩を背後から切り裂いた。


 倒れた盗賊の背中を踏みつけてバンダールが迫って来る。


 唸りを上げてハンドアックスが迫る。腕の長さもあって、こちらの短剣が奴の体に届く事は無い間合で、俺の脳天を叩き割ろうとしている。


 しかし、俺の頭の中は冷め切っていた。ギリギリまでバンダールを引きつけてからスレスレでかわす。


スパン。


 乾いた気持ちのいい音が響くと、ハンドアックスを握ったままのバンダールの右腕が切断されて飛んでいった。


「いっっっっっっっでぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 傷口から激しく血液が吹き出している。

 どんな病気を持ってるかわからない。血には触らないようにしようと、どこまでも冷静でいられる事に違和感を覚える。

 こんな凄惨な場面を見て平気な俺は、どうかしているんじゃないだろうか。


 飛んでいった自分の腕を取りに行くように、俺に背中を向けたので、遠慮なく斬らせてもらう。


「ギャアアアアア! あにぎぃ。だず、げ、で、、、」


 腕を諦めて兄貴の方に駆け寄るが、


プシュッ!


 兄貴は躊躇なくバンダールの腹を、持っていた剣で突き刺した。


 バンダールの体を貫き、背中から飛び出した刃が見える。そこには何やら黒い煙のようなものが漂っているのが見えた。


「てんめえ! 弟だろうが!? なんで殺した!!」


 レーベンが激しく憤る。


「殺した? グハハハ!

 生かしてやったのさ。なんの役にも立たない、大飯喰らいのうすのろを!

 どいつもこいつも、こいつを見たらビビって大人しくなるから、生かしてやってたんだ。

 こいつはな、お袋を犯したオークの息子なんだよ! 


 こんな畜生腹の化け物を、腹違いの弟として飼ってやったんだ。感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはねえ!」


 そう言いつつ剣を抜くと、倒れている他の手下達の体を刺して回る。


「お前、それでも人間か?」


 レーベンの声が低くなる。


「人間に決まっているだろう!

 好きなだけ奪って、食って、寝て、殺って、犯る。それが人間ってもんだろうがあ!

 そこの化け物なんざ、初めて犯ったのは3才の時だぜぇ!

 犯られた女は完全に狂っちまったぁ。

 ギャハハハハハ!

 ありゃあ、けっさくだったぜえ。」


「グ、、グヒヒ、ヒ、ヒヒヒ、」


 兄貴の笑い声を聞いて、バンダールも笑い出す。腹の傷から血が吹き出すのも構わず。


「こいつら、、、」


 レーベンの声が一層低くなる。


「う、ぐぁ、ががぎがが、」


 言葉にならない声を上げながら、ゆっくりと倒れていた盗賊が立ち上がる。


「お前らもそう思うだろう?」


 兄貴が声をかけると、次々と他の倒れていた手下達が立ち上がっていく。

 焦点の合わない目はどこを見るでもなく、もはや生者のものとは思えないほど澱んでいる。

 口はだらしなく開き、よだれを垂れ流しながら、不愉快で不安定な唸り声をあげている。


「ムート! こいつら、一回死んでるぞ!

 アンデッド化してやがる。絶対に攻撃を貰うな!!」


 レーベンが警戒を一層強める。

 さっきまで斑らで不安定だった盗賊達のオーラが、今でははっきりとその身をドス黒く覆っている。


「あの黒いのは本当にオーラなのか? 特に、あいつの剣から立ち昇ってる煙みたいなのは、吸い込むだけでヤバいだろう。」


「黒いオーラだと? そいつは『呪い』だ。

 そいつで攻撃されると呪いを貰っちまうし、長く触れても蝕まれるぞ。

 とっ捕まえた時は、呪いなんざ持ってなかったはずだ。ジジイどもは何をしやがった!?」

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