第8話 私だけの君と
8話 私だけの君と
「ねぇ、あれ……」
「うん。とっくに気づいてるよ。あれ、だよね」
「おいおい、マジかよ。あの月島さんに……?」
学校まで、あと五分といったところだろうか。
周囲には同じように登校する生徒たちが増え始め、前後左右どこを見渡しても同じ制服を着た男女ばかり。
そんな中。私は、いつも感じている目線とは違った″それ″を、確かに感じ始めていた。
(やっぱり、見られるよね……)
犬原君には申し訳ないが、私は悪い意味でどうしても注目を集めてしまう。
そしていつもは一人で孤独に登校している腫れ物が、今日は隣に男の子を連れているのだ。目立たないわけがなかった。
「? 先輩、どうかしましたか? なんかさっきからずっと周りを気にしてるような……」
「いやぁ、ね。見られてるなぁ……って。ごめんね、悪目立ちしちゃってるみたい」
「悪目立ち、ですか?」
「うん。多分みんな、私の隣に男の子がいることを気にしてる。私が変に目立っちゃうから、かな」
昨日、一目見ただけで分かったことだが、犬原君は私なんかとは違ってとても真面目で、普通な子だ。
だからこそ、私のような女の隣にいると余計に周りから違和感を覚えられてしまう。犬原君は何も悪くないのに。
「先輩が謝ることなんて一つもないです! それに、先輩は悪目立ちって言いましたけど、違うんじゃないですか?」
「え? そ、そうなの?」
「みんな、きっと嫉妬してるんです。特に男子が僕に対して。だってこんなに可愛くて綺麗な先輩の隣を歩けるなんて、男子からすれば最高のシチュエーションですしね」
「へっ!? い、いやそれは……流石にそんなことないんじゃ……」
頬に熱が篭り、首から上がゆっくりと熱くなっていく。
なんて恥ずかしいことを言うんだ、この子は。
男子みんなが私の隣を歩きたがってるって? さっきも私の男子人気の話をしていたけれど、いくらなんでもそれはないんじゃなかろうか。隣を歩きたくない、ならともかく。
犬原君は、私のことをかなり好いてくれている。けどそれ故に、もしかしたら恋は盲目モードがまだ続いているのかもしれないな。嫉妬なんて、そんな。やっぱり周りの人たちは、私たちの関係が気になっているだけだろう。なんなら彼氏彼女の恋人関係ではなく、私がこの子を脅して従わせてる……みたいな妄想もされていそうだ。
(まあ、仮に。千歩譲ってそれが本当だったとしても。私が一緒に歩きたい人は、たった一人だけだよ……)
もしかしたら、私は私が思っている以上に、犬原君に惚れてしまっているのかもしれない。
初めて私を認めてくれた。私を肯定してくれた。そして……私を求めてくれた。
彼は私の隣を歩けることをさも自慢げに喜ぶけれど。本当は、私の方がそう思ってる。
だからーーーー
「!?!? せ、せせ、先輩!? これは!?」
「いいでしょ、別に。周りに変な誤解されるの嫌だし。……見せつけちゃおうよ」
男の子とは思えないほどに細くて、白くて。それでいて華奢な左手を、右手と繋ぐ。
私は犬原君の彼女で、犬原君は私の彼氏なのだ。これくらい……いいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます