第7話 はじめての朝
7話 はじめての朝
「うっわ。まだちょっと腫れてる。最悪……」
朝、いつもより一時間ほど早く目が覚めて洗面所の前に立つと、目頭が少し腫れていた。
原因は分かっている。昨日、もうこの先枯れて出なくなるんじゃないかと思うほどに大量の涙を流したからだ。
昨日はあの後、散々だった。
上半身下着姿でギャン泣きしたせいで犬原君をかなり困らせたし、帰り道だって家まで送ってもらってしまった。まさか彼氏とする一日目の下校が、慰めてもらいながらのものになろうとは。
ひとまず寝癖を治し、口をゆすいで。お母さんが作り置いてくれていた朝ごはんを食べながら朝のニュースを見て、制服へと着替える。
そして、しばらくゆっくりしていると。家のインターホンが鳴った。
「お、おはようございます。えっと、その……大丈夫、でしたか?」
「あー、うん。まあなんとか。ちょっと待ってて、すぐ支度する」
玄関先に立っていたのは犬原君だ。昨日、連絡先を交換して、なんやかんやあって一緒に登校することになった。
ぶっちゃけ昨日の今日だからめちゃくちゃ恥ずかしいけど。一人で、というのも今までは普通だったのになんだか急に寂しく感じたので、簡単に了承してしまったのだ。
「お、お待たせ。ごめんね、待たせちゃって」
「いえ! 本当にすぐ支度してきてくれましたし。先輩と一緒に登校したいって言ったのは僕ですから!」
結局、私は彼の告白に対し、首を縦に振った。
本当に私なんかでいいのか、と正直まだ不安に思う部分は大きいけれど。少なくとも私は、彼のことをもっと知りたいと思ったから。後悔はしていない。
「犬原君も家、こっち方面なの? なんか成り行きで私の家を集合場所にしちゃったけど」
「僕の家はもっと向こうの方です。ここは通り道なので、むしろここの方がいいですよ。それに……」
「それに?」
「……な、なんかその、彼女さんの家の前で待つのって、凄く彼氏っぽくないですか?」
「ぷっ……ははっ。なにそれ」
「わ、笑わないでくださいよぉ!」
かあぁ、と顔を真っ赤にしてそう言う彼は、まるで小動物のようで。男の子相手にこういう感想を抱くのはダメかもしれないけれど、かなり可愛い。
「彼氏、ねぇ。まさか私にできるとは思いもしなかったな」
「僕からすればむしろ、今の今までいたことがないっていうのが不思議なくらいですよ。月島先輩、めちゃくちゃ男子人気高いのに」
「え? そ、そうなの?」
「そうですよ! だから昨日、僕は完全に玉砕覚悟だったんですから」
男子人気……そんなの、意識したこともなかった。
たしかに男子からの視線は何度も感じたことはあったが、それは好意なんかではなく、ただ単に嫌いな相手に向ける畏怖の目線なのだろうとばかり思っていたのに。その中には一人くらい、私に対して″そういう感情″を抱いていた人も混じっていたのだろうか。
「ま、でも結果的には、私の人生初めての彼氏は犬原君に決定したわけだけど」
「っ……あ、改まって言われると、やっぱり照れますね」
しかし、その誰よりも、私は犬原君を選んでよかったと。今はそう、心から思える。
きっと全てを曝け出した私に対してあんな言葉をかけてくれるのは、彼くらいしかいないと思うから。
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