第35話 デートファッション

35話 デートファッション



 デート当日。


 集合時間十五分前に、私は待ち合わせ場所についていた。


(流石にまだ来てないよね……)


 張り切りすぎた。昨日の夜も着ていく服で悩んでしまったり、楽しみすぎてあまり眠れなかったり。結局はこうして早く着いてしまって。


「……」


 時間を確認したスマホの真っ暗になった画面で、風で乱れた前髪を直す。


 何を細かいことを気にしてるんだろうとも思ったけれど。やっぱり、犬原君に会う時は出来る限り可愛くみてもらいたくて。一度気にし始めると止まらない。


 前髪だけでなく、服も。埃がついていないかとか、ちゃんと着こなせているかとか。服のバリエーションが少ないなりに最大限できるオシャレはしてきたはずなんだけど。少し不安だ。


「や、やっぱり変だったかな。でも……」


「先輩らしくていいと思います! とっても似合ってますよ?」


「へひゃはぁっ!?」


 無意識に漏らしていた独り言に後ろから返事を返されて、身体が大きく跳ねる。


「い、いつから!?」


「先輩がスマホを鏡にして前髪を直し始めたあたりから、ですかね」


「最初っからじゃん、それ……」


 振り返ると、そこには。まるで愛玩動物でも眺めるような目で佇む彼がいた。


 犬原君の格好は茶色ベースのシンプルながらもどこかオシャレ感を感じるもの。服の名前があまり分からないので語彙で説明しづらいが、子綺麗にまとまっていてかっこよかった。


「やっぱり先輩はスタジャンとパーカーが似合いますね。かっこよさと可愛さがどっちも感じられて大好きです!」


「や、やめて……そんなキラキラした目で言わないでよぉ……」


 それに対して私の格好は、白のパーカーの上から黒のスタジャンを羽織るというあまり女の子らしくない組み合わせだ。


 それなのに……私を褒めちぎる彼の目には、一切の曇りがない。本当に心の底からそう思ってくれているのだろう。


「もぉ。ほんと物好きだよね、犬原君って」


「えへへ、先輩は誰の目から見ても可愛いですよ? 僕の自慢の彼女さんですから」


「……あ、そ」


 頬が熱い。どうしてこう、簡単に嬉しくなってしまうのか。


 すっ、と差し出された左手を握り、繋ぐ。


 横に並ぶと私より少し背が低くて。でも、しっかりと私を引っ張ってくれて。今日はデートなのだと意識しているからか、目が合っただけでドキドキしてしまう。


(やっぱり今日の犬原君、いつもよりかっこいい……)


 この間の一件もあるからだろうか。ここ最近はより一層、彼のことがかっこよく見えて仕方ない。


 どんな筋骨隆々な男とも、高身長な人とも違う。


 小さくて、強くて。そして誰よりも優しい笑みを向けてくれる。そんな彼のことが。私はどうしようもないくらい大好きなのだ。


「そろそろ行きましょう、先輩。デートの時間は有限ですから!」


「うん。行こっか」


 繋いだ手をしっかりと握り、歩き始める。




 今日は休日デートなのだから。丸一日、いっぱい色んなことができたらいいな。

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