第34話 恋愛映画
34話 恋愛映画
「先輩って、恋愛映画に興味ありますか?」
金曜日のお昼。突然、犬原君にそう、尋ねられた。
「恋愛映画? どうしたの急に」
「いやぁ、実はですね。予告編しか見てないんですけど、めちゃくちゃ気になってるやつがあって! そ、先輩さえよければ一緒に見に行けたら、と……」
恋愛映画か。見たことないな。
漫画でなら、恋愛というジャンルでいくつか作品を読んだことはある。でも所詮はその程度で、興味があるかと言われると微妙なラインである。
(けど、犬原君と見に行けるっていうなら話は変わってくるんだよね……)
ようするにこれは映画デートのお誘いだ。なら、もはや映画の内容云々はあまり関係ない。
「いいよ。一緒に行こ」
「ほんとですか!? やったぁ!!」
こんなの、二つ返事でOKを出すに決まっている。
内容がホラー映画とかならまだ考える余地はあったが。恋愛映画ならよほどつまらないということもないだろうし、これもいい機会だ。もしかしたら今の私なら意外とハマるかもしれない。
なにせ、あまりにフィクションすぎると思っていた恋愛漫画の登場人物の気持ちが最近、少しずつ分かるようになってきてしまっているから。お弁当の食べさせあいっこも、手を繋ぐことの喜びも。そして彼氏君に守ってもらう嬉しさも。
どれもこれも、今では全て経験し感じたことばかりだ。
「じゃあいつにしよっか? 多分私の方が暇だと思うから合わせるけど」
「そうですね……日曜日はどうですか? 明日すぐに、って言いたいところなんですけど、実は明日は家の手伝いがあって。どうせなら一日空いてる日に行ってたっぷりデートしたいです!」
「うん、分かった。丸一日空けておくね」
空けておくね、なんて格好つけた言い方をしたものの。私は土曜日も日曜日もずっと一日中暇なので空けるも何もない。
私は部活に入っているわけでもないし、犬原君のように家が自営業(道場をそう呼んでいいのか分からないけれど)で手伝いがあるとかもないから、週末は基本暇を持て余しがちだ。
強いて言うならしていることは勉強だろうか。本当はバイトして家にお金を入れたいんだけど、バイト禁止を破ってそれが学校側にバレてしまっては元も子も無いとお母さんに止められているし。それなら必然的に残る選択肢は勉強くらいなものだ。
(まあ、最近は毎日のように週末も犬原君と過ごしてるから。退屈な時間も相当減ったけど……)
犬原君も部活には入っていないし、バイトもしていない。だから私たちはかなり一緒にいられる時間が長く、集まるためのハードルも相当低い。
そのせいでーーーーというかそのおかげで、週末の土日も結局丸一日とはいかなくともどこかで一緒に過ごしたり、電話を繋いで談笑したり。
気づけば、私の日常は相当犬原君に侵食されているな。いやもちろん、嬉しいことなんだけども。
「あ、先輩! 今日はその野菜炒めがいいです!」
「へぇ、渋いところ選ぶね。私は……ポテトサラダにしよっと」
日曜日は丸一日、休日デートか。
……楽しみだな。
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