第33話 自分で

33話 自分で



「……もしもし?」


『お、やっと出たか。ったく、どうせかかってくるって分かってたんだからさっさと出ろよな』


「うるさい。私はアンタらと違って暇じゃないの。さっさと結果だけ言ってよ」


『はいはい。相変わらず可愛げのない女だなぁ』


 時計の針が進む音だけが響く自室。日課のストレッチをしながら着信に応答し、スマホをベッドの上に置く。


『陽菜、悪いけど俺らは降りる。ありゃ無理だ』


「はぁ!? どういうこと!?」


『デカい声出すなよ。お前が結果だけっつったから短くまとめたのによ……』


 声を荒げたくもなるだろう。


 降りる? ふざけるな。こっちは″金″を払ってるんだぞ。


「どういうことよ、無理って。別に倒せって言ってるんじゃないでしょ。私が依頼したのはアイツをどうこうすることじゃない。隣にいるひょろい奴一人どうにかしてくれれば、それでいいってーーーー」


『それが無理だっつってんだよ。大体キレたいのはこっちだ。聞いてた話と全然違ぇじゃねえかってな』


 南雲と山崎。私は彼ら二人を″雇った″。


 二人は同じ高校の同学年生徒。クラスは別だが少しだけ交流がある。


 彼らは俗に言うヤンキーだ。素行は悪いし髪型も奇抜。まるで、どこかの誰かさんみたいに。


 でもそんな二人だからこそ、私はお金を払ってまで依頼したのだ。


『月島明里の彼氏を無様に負かしてくれ』、と。


 月島明里本人を倒すのは無理だ。そんなことは分かっているし、どうせ引き受けてもくれない。


 だから私は、アイツから彼氏という存在を奪うために彼氏の方をどうにかしようと考えた。


 どういう経緯で二人が付き合ったのかは知らないが、少なくとも目の前で情けなく喧嘩に負けるところを見ればあの月島明里が幻滅しないわけがない。


 当然隣でそんなことになりそうになったら、アイツは喧嘩に介入してくるだろう。だから彼氏が一人になった時を狙えとも言った。それでボコボコにした後に弱みの写真なんかも撮っておけば武器としては中々に使える。そう判断して。


『アイツは俺らなんかじゃどうにもできないくらい強い。もしかしたら月島明里は、そこに惚れたのかもしれないな』


「はぁ!? あれが強い!? 冗談でしょ!!」


『冗談なんかじゃねえよ。実際に山崎は簡単にのされてる』


「っ……!?」


 あの二人の強さは知らない。興味も無い。


 けど、少なくともあの風貌と体格であんなのに負けるなんて。想像がつかない。


『山崎がやられてんだ。成功はしてないけど依頼料として金は貰っとくぜ。じゃあな』


「あっ、ちょーーーー!!」


 ツー、ツー。


 一方的に電話を切られ、一定間隔で刻まれる電子音が部屋に響く。


「っざけんじゃないわよ。アイツらどれだけ使えないの? もう、こうなったら……」


 あんなのに期待したのが馬鹿だった。


 やっぱり男は信用ならない。私に金魚のフンのように引っ付くことしかできない女子も、同様に。


「私が、自分でやるわよ。それで一番になれるなら」


 もう、誰にも頼らない。



 月島明里は私がーーーーこの手で直接、一番の座から引き摺り下ろしてやる。

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