第36話 君の好きな漫画は1

36話 君の好きな漫画は1



 私たちがデートをするのは、電車で三駅ほど先の大きなショッピングモール。


 夕方から上映されるお目当ての映画のチケットを機械で購入し、出てきた紙のそれを財布にしまって。ようやくそこからモールデートのスタートである。


「まずはどこから行きましょうか。ここ、すっごく大きいのでなんでもありますよ!」


「うーん……広いは広いで迷うね。こうやってマップを見てると行きたくなる所ばっかり」


 モールは駐車場を除いて一階から三階まであり、一階が食品、二階が衣料品や雑貨、三階が専門店街とレストラン街と。どの階も魅力が目白押しである。


 今私たちがいる映画館は三階の端っこ。とりあえずフロアマップを見てみたもののどの階にも行きたいお店がいっぱいで。最適なルートというのはすぐには浮かばなかった。


「なら、端っこから全部見てまわりましょう! 時間はたっぷりありますから!」


「いいの? 端っこから端っこまでってなるといっぱい歩くし大変だよ?」


「大丈夫です! 先輩となら、どれだけだって歩けます!」


「っ……そ、そっか」


 彼がそう言うなら、異論は無い。


 映画館を出て三階の共用通路に出ると、向こう側の端っこは見えないほどに遠い。通路が真っ直ぐではなく少し湾曲しているのもあるだろうが、それでも改めて中々の規模感だ。


 まずは三階フロア、専門店街。


 様々な人とすれ違いながら歩いていくと、スマホショップに百均、CDショップに本屋……と。どのお店も魅力的でついつい吸い寄せられそうになってしまう。


「あ、本屋さん寄ってもいいですか? たしか集めてる漫画の最新刊の発売日が今日なんです!」


「もちろんいいよ。っていうか……へぇ。犬原君って漫画、読むんだ?」


「まあそんなにいくつもは読んでないんですけどね。先輩は読まないんですか?」


「どうかなぁ……読むといえば読むけど、人並み以上かと言われると、ね。犬原君と同じくらいかも」


 談笑しながら、本屋さんの漫画コーナーへと歩みを進める。


 私が読む漫画は主に恋愛系。大体は電子書籍アプリの広告を見たら読めるようになるとか、ログインボーナスのポイントを使ったらとか。そういうチマチマした仕様の範囲で少しずつ読み進めているだけだ。


 本屋さんに入った……ということは、多分犬原君は紙媒体できちんと単行本を買っているのだろう。私も買おうかと思ったことはあるけれど、どうしても敷居が高くて。特に面白いと思う漫画ほど世間からも人気だから巻数が多く、それらを全て紙で買って家に置くとなると些か気が引けてしまう。


 あ、でも漫画じゃなく小説なら少しだけ持っているな。学校で読んだりもよくしていたっけ。


「あったあった。この漫画、最近すっごくハマっちゃって。この間既存のやつまとめ買いしちゃったんですよね」


「へぇ、そんなに面白いんだ。……って、十三巻!? ってことは十二巻も一気に買ったの?」


「はい! 一巻試し読みで読んだだけでもう続きが見たくてたまらなくなっちゃいまして」


 そ、そんなに面白いんだ。これ。


 私は最近、そこまで熱くなれる漫画に中々出会えていないからな。少し羨ましい。


(どれどれ? タイトルは……)


 あかし様の告白談。ああ、タイトルだけは聞いたことがある。


 確かラブコメ系作品だったような。主人公とこのタイトルにもある名前の子、あかし様がお互いを好きなのに中々告白しようとしなくて。好きになったら負けだから相手の告白を引き出し合うために頭脳戦を繰り広げる……みたいなあらすじの。




 てっきり男の子が読む漫画ってバトルものばかりだと思っていたから。少し意外だ。

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