第37話 君の好きな漫画は2

37話 君の好きな漫画は2



 いやでも、よく考えたらそんなに変なことではないのかもしれない。


 実際今日二人で見にいく映画は恋愛映画だ。それも漫画の実写版だし、実は犬原君は結構私と読む漫画の傾向が近いのだろうか。


「それ、知ってるよ。まだ読んだことはないんだけどさ。確かラブコメだよね?」


「はい! って、先輩も知ってるんですか!? なんか意外です……」


「な、何が意外なのさ。私が恋愛漫画読んじゃ、ダメなわけ?」


「いやそういうわけじゃ! ただ先輩にあまり漫画を読んでるイメージが無かったので……」


「ふぅん」


 まあ私に恋愛漫画なんてガラじゃないことくらい、分かってるけど。


 そっか。犬原君はこの漫画が好きなのか。


「私も読んでみようかな、これ」


 気づけばそんなことを、口に出していた。


 犬原君の好きなものなら、私も好きになってみたい。元々ラブコメは苦手なジャンルでもないし、何よりタイトルは知っている作品だ。ここまで続刊が出ていて人気の実績があり、彼氏君からもお墨付き。読む理由としては充分すぎるだろう。


「ほんとですか? なら貸しますよ! 先輩が興味持ってくれるなんて……嬉しいです!」


「大袈裟だなぁ。でもいいの? 貸すの、抵抗あったりしない?」


「先輩相手にそんなのあるわけないじゃないですか。遠慮せずに借りてください!」


「そう? ならお願いしよっかな」


 そう言って、ズラリと並べられた単行本の山にもう一度目を向ける。


 本屋さんではほとんどの本は本棚に仕舞われていて背表紙しか見えない状態で売られているのだが、流石のコンテンツ力だ。名だたる名漫画達と同じように、ここではあかし様全巻がとても分かりやすく全巻平積みされたいた。


『祝! アニメ化!』、『大人気ラブコメの金字塔!』と、目立つポップも貼られている。備え付けられた小さな液晶にはアニメの番宣PVが流れており、かなりお店側が宣伝に力を入れていることもよく伝わってきた。


(この子があかし様、かな?)


 PVを見た感じ、どうやら主要人物は五人ほどいるらしい。あかし様に主人公、内気な後輩にあかし様の親友枠の少しバカっぽそうな女の子等々。特に女の子の登場キャラはまだまだいるらしく、どの子も魅力的だ。


「ねぇ犬原君」


「はい?」


「稲原君はさ……どの子が好きなの?」


「へっ!?」


 漫画を読む時、大体の人は登場人物の中で一番好きな子ーーーーいわゆる「推し」ができるものだ。きっと犬原君も同様で、好きなキャラの一人はいるはず。


 純粋な興味本位だった。彼が私を一番に好いていることにもはや疑いの余地はないから、嫉妬することはないけれど。


 彼が漫画ではどんな女の子がタイプになるのか。いや決して。決して女の子の推しがいたとしても嫉妬はしないけども。


 ただ純粋に……気になる。


「そ、そうですね……」


「別に深く考えなくていいよ? 直感で!」


「なら……この子、ですかね」


「どれどれ?」


 数ある単行本のうちの一冊を指差し、彼は照れ臭そうに目を背ける。


 あかし様の単行本はそれぞれ登場人物一人が表紙を飾っている。きっとその指の先に、犬原君の推しがーーーー


「……へぇ」


 そこに映っていたのは、ついさっき。私がPVを見て瞬時にバカっぽいと称した女の子。




 私とは真反対そうなこの子が……ふぅん。

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