第38話 ″好き″の共有
38話 ″好き″の共有
バカっぽくて、明るくて。あかし様が所属している生徒会の書記でありムードメーカー。それが犬原君の指差したキャラである。
本当に、私とは正反対の子だと思った。そして少しだけ……ほんの少しだけ、胸がチクッとした。
別に嫉妬なんてしない。二次元のキャラは所詮三次元には出てこれず、犬原君を私から奪い取るなんてことはしないのだから。
「犬原君は、こういう子が好きなんだ」
「へっ!?」
嫉妬なんてしない……はずなのに。
気づけばそんなことを独り言のように、漏らしていた。
ぎゅう、と犬原君の手を握る力が強まる。完全に無意識の行動だったけど、ようやくそこで。私はこのキャラに嫉妬しているのだと、気付かされた。
「あ、あくまでライクですからね?」
「……分かってるよ」
自分から聞いておいて、本当に私というやつは。どうしてこう、面倒臭いのか。
「僕が本当に好きなのは、先輩だけですよ」
「…………ん」
その言葉を聞くだけで、胸のつっかえが取れて。心がぽかぽかと暖かくなる。
私の自己肯定感が低すぎるせいだろうか。どうしてもこうやって定期的に確認してしまいたくなってしまう。何回聞いても……彼から返ってくる答えは同じだって、私が一番よく分かってるのにな。
「よし、彼氏君からいい言葉ももらえたし。そろそろそれ買って次のお店行こっか。まだまだ行きたい所、目白押しでしょ?」
「で、ですね。あんまり一軒一軒のんびり見てると、あっという間に映画の時間が来ちゃいそうですし」
そう言ってレジであかし様の新刊を購入し、本屋を後にする。
そこからはしばらく、長い通路を歩き続けた。
スマホカバーのお店やアクセサリーのお店、楽器のお店等々。前を通り話題にはするものの入りはしない微妙なレベルのがいくつか続いて。
次に入ったのはーーーー
「あ、私イヤホン見たいかも」
「いいですね! 見ましょう見ましょう!」
イヤホンとヘッドホンを取り扱う専門店、「love sounds」。今持っているイヤホンを買った場所だ。
ここは電化製品店などで置いてある人気タイトルは勿論のこと、自社のオリジナル商品などここでしか見れないような物も多数取り扱っている。
普通のイヤホンを買うだけなら他の店でもいいんだけど、やっぱりお気に入りの柄や形を見つけるならここだ。
「なんかおしゃれなところですね……。どの商品も個性が強いといいますか」
「うん。このイヤホンを買ってからは一度も来てなかったんだけどね。でも……」
このイヤホンを買った時のことはよく覚えている。
個性的で、強そうで。私というハリボテを完成させるための部品として購入するなんて言い訳をしながらも、実はデザインそのものに惚れてしまっていた私がいて。
とどのつまり、自分が好きで買った物なのに、その気持ちに蓋をしていたのだ。
だけど、もうその必要はない。
「私の好きを、肯定してくれる人がいたから」
「っ……!」
今日はちゃんと、自分の気持ちに従える。欲しい物は欲しいって、そう思える。
(あの日の私に、今の私を見せてあげたいな)
あの頃は本当、こうなるなんて思いもしなかった。ちゃんと自分の好きな物に向き合えて、しかも大好きになった人とここを訪れることができるなんて。
「犬原君に似合いそうなのも選んであげるね。ここ、見た目の割に値段はかなり良心的だから」
向き合って、認めて。そして……
次は、共有できたらな。なんて。
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